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プロローグ
3月某日。
時刻は午前3時30分。
「いつまでこんな格好してなきゃいけないんだよ!!」
真夜中の学校。その校門前で安城 結衣(あんじょう ゆい)は中学の卒業を間近に控える中、自らの格好を嘆いていた。
その元凶たる幼馴染に抗議し、睨みつけながら。
勿論この姿になったのは、ゲームでの賭けに負けたペナルティーなのだから、仕方がないという事は結衣にも分かっている。
だが分かっていてもそれを許容できるかどうかはまた別の話だ。
とは言え傍から見て可笑しな姿というわけでは決してない。
結衣の姿を見てもほとんどの物ならば何故嘆き睨みつけるのかが分からないものが多いだろう。
それは何故か……?
所謂『制服』姿――。女子校生の制服姿なのだ。
赤いチェックのスカートに紺のブレザー。赤いリボンを身に纏う小柄な結衣の姿が月夜に照らされる。
月明かりに制服姿と言っても、月に代わってお仕置きをする美少女戦士ではない。そもそもブレザーだ。
だが……。
肩まで流れるブラウンの髪が、サラサラと夜風に靡く。
小さな顔を舞台に透き通る青み掛かった瞳が、長いまつ毛を着飾り踊っている。
――ムーンなプリズムパワーでメイクアップはしないものの、美少女の姿ではあった。
今着ている制服は、目前の私立花園学園高等部の制服であり、今年4月より1年になる女子生徒の制服だ。
結衣も今年からこの学校に通うことになっており、真夜中でなければ何ら問題ない姿であっただろう。
だがそれでもその制服を着ることは、結衣からしてみれば耐えがたい苦痛でしかない。
少なくとも賭けなどするのではなかったと、明日一日家に引きこもるほどには、後悔ばかりが頭を過る。
「ゲームに負けたんだから、帰るまでその格好に決まってるじゃない!バカなの?
それに来月から高校3年間その格好なんだから別にいいじゃない!!!
それよりも早く学校の中調べに行くわよ」
「――なっ……」
この格好の元凶たる幼馴染、本庄 明日香(ほんじょう あすか)はさも当然とばかりに呆れ、肩をすくめる。
そのまま校門の柵に足を掛けると難なくピョンと飛び越えて校内に入っていってしまった。
思わず一瞬言葉を詰まらせる結衣。
――いや、だから……。
だがそれでもすぐに再起動。そして明日香の背中に突っ込まずにはいられない。
何故ならば――
「俺は男だぁぁぁぁあああああああ~~~~~~~~!!!!!」
安城結衣は男である。
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