安城結衣は男である。

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 何故明日香から『デンキ』と呼ばれているのか?  それは実家が家電屋……というわけではけしてない。  むしろ洋菓子店だ。  しかもめちゃくちゃ美味しい! いや本当に!!  ただその洋菓子店の名前が『ヤマダケーキ』。  どこぞの大手家電販売店の名前にニュアンスが似ているからという単純な理由から、小学時代に誰か知らんが呼び出したことから、そのあだ名が定着した。  定着したのはあくまで小学時代で、今では明日香くらいしか読んでいないが……。  実際結衣も普段は太郎と呼ぶし、怒ったときには…… 「嫌だよ!! だいたいどこから湧いてでた山田太郎」  フルネームで呼んでやることにしているのだ。   なぜかって?  太郎の名前が書類の例として使われることが多かった。そこに結衣は気づいたのだ。  例に使われるほど一番ありふれた名前、フルネームで呼んでやれば馬鹿にしているようになるのではないかと!  ……まず世界中の山田太郎さんに謝れという話であった。  そもそも全国に平均的に散らばっている名字と名前であって、一番ありふれた名字でも名前でもない。    だがそれを知らない結衣は、「ふふーん」とフルネームで呼ぶ度に勝ち誇ったようにドヤ顔を決める。  それに対し太郎はといえば……  満面な笑顔の裏にふつふつと煮えたぎる物を見え隠れさせ……る訳もなく、ただ単純にからかい返すように結衣の禁句で答えてやる。 「……フッ……何か言ったかなユイちゃん……?」 「――『ちゃん』を付けるな『ちゃん』をぉぉぉ!!!!!  テメー、オモテに出ろや!!!」 「…………もうオモテ」  お互いに火花を散らす結衣と太郎。  いや、火花をちらしているのは結衣だけなのだが、それに付きやってあげる太郎。  結衣は名前にコンプレックスがある。  名前どころか見た目そのものがコンプレックスだ。  身長は154センチと小柄で、肌は透き通るように白くきめ細かい。  明るく日の光に反射し輝くブラウンの髪はサラリと肩まで流れ、キューティクルには微塵もダメージは無い。  くっきり二重に大きな瞳。プックと膨らみのある淡いピンク色の唇。その小さな顔に見事と言うべきバランスで整った顔ちは、どこから見ても……。 「……汚れる」  未だ地面に座り込む結衣の体を引き締まった二の腕で持ち上げる太郎。 「山田が女子抱えてる」 「何!? 伝説のお姫様抱っこだと!!」 「お姫様? キャ~~ホントだ顔ちっちゃーい」 「さすが姫、メッサ可愛いんだけど」 「え、何々?」  登校中の生徒達が二人のやり取りに気付き、その目線が集まる。 「だぁ~かぁ~らぁぁぁぁぁ~~……俺は男だぁぁぁぁぁぁああああああああああああ~~~~~~~~ッ!!」  キーンコーンカーンコーン……。  興味深げに集まる生徒の中、朝の予令とともに響く声が学園の一日の始まりを知らせる。
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