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石炭政策篇(全員大会)
安岡春採炭砿労働組合の事務所で、炭鉱労中央執行委員にポスト八次の叩き台について説明され、全員大会で基本方針を確認すると言う事で、組合員に全員大会の日時を知らせてから、約二週間の時が経った。
全員大会の開く日までの間、組合執行部は中央執行部と連携して、ポスト八次の内容が変更されたと言う事はないかと、情報を収集していたが、芳しくなかった。燃料資源庁の官僚が、うっかり口を滑らすのではないかと、野党第一党の有力者と一緒に面談したのだが、のらりくらりとかわされ、そんなものは知りませんと言われるだけだった。
入手した叩き台を見せた時は、一瞬だけ顔をビクついた様に見えたが、内容を知ったところで、お前たちにはひっくり返せない、決定事項だと言わんばかりに、直ぐに自信満々な表情に戻っていた。
燃料資源庁の官僚は、叩き台が漏れたことには驚いていたのだろうが、炭鉱労の今の勢力、体力、政治力、国民の無関心からして、政策転換闘争をやったところで、世間の耳目を集めることは出来ない、孤立無援で炭鉱労の儀式以上の物にはならないと踏んでいるのだろう。
全員大会の会場には、ポスト八次が、かなり過酷な内容で、これを引っ繰り返せなければ、ヤマは終わりだと言う危機感から、炭鉱労がどのような対応策を考えているのかを聞くために、組合員とその家族が詰めかけていた。
執行部委員たちが壇上に上がり、組合員たちにポスト八次に関する現状で知りうる全てを説明し始めた。
「組合員とそのご家族には、非情な話をしなければなりません。現在、第八次石炭政策の政策下で、国内炭一千万トン体制を何とか維持しております。しかし、ポスト八次では、供給目標も需要目標も明示されていません」
と、国内炭一千万トン体制という現行の生産規模は維持されないと言う現実を告げると、一瞬の沈黙の後、間髪入れずに、怒号が飛んだ。
「そんな馬鹿な話があるか!」
「散々振り回しておいて、お払い箱か!」
「石油ショックの教訓は、どこに行った!」
「戦後の復興期を支え、石油ショックの時はボロボロにされた状態で炭を出したが、なのにこの仕打ちはなんだ!あいつらには、人間の血が通ってるのか!」
と、組合員は、ポスト八次に対する怒りを露わにする。黒いダイヤの戦士と言われたのも今は昔で、功も誇りも石炭政策の内容の変貌とともに、少しずつ奪い取られてきたのだから、激高もする。
激高する組合員の様子を見て、ポスト八次の核心ともいうべき内容を説明したら、燃料資源庁へ向かっている怒りの矛先は、炭鉱労にも向きかねない。
国内炭五千五百万トン体制で始まった石炭政策は、答申を重ねるごとに目標が下げられ、石油ショック時には二千万トン体制、八次政策では一千万トン体制と最盛期の五分の一以下になっていた。
二千万トン体制から一千万トン体制に目標が下げられた時は、答申前に石油ショックと言う追い風がありながらも、一千万トン体制に引き下げられた。国策で開発が進められたヤマで、立て続けに保安サボタージュによる死亡重大災害が発生し、需要家に対する供給面での信頼性を失しなったうえに、合理化で痛めつけられたヤマに増産に応える余力はなかった。度重なる事故で、国内の炭鉱に供給安定性がないと見限られたのも、引き下げに転じた遠因になったのは、間違いない。
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