石炭政策篇(ポスト八次)

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石炭政策篇(ポスト八次)

 昭和がもう数年で終わるという時期、ポスト第八次石炭政策の答申内容の叩き台を入手しようと、労使はあらゆる手段を駆使した。当時の最大野党の有力者、審議会の有識者に師事していた炭鉱労組合員や組合員の子弟が居ないか探しだし、そのコネクションから入手しようとしていた。使用者である会社は、与党大物政治家の力で入手しようとしていたが、成果は芳しくなかった。 必死の労使の弛まぬ入手工作の結果、ポスト第八次石炭政策の叩き台を、入手したが、その内容は、日本石炭鉱業会と日本石炭鉱業労働組合の幹部を絶望させるものだった。早急に政策内容の方針転換を迫るか、答申内容を飲んで政策終了前に光栄ある撤退と言う名の閉山を選ぶか、答申の内容関係なく草を食み泥水を啜る大合理化を敢行して政策終了後の存続を企図するか、どの道を選ぶか選択を迫られていた。 ポスト八次は、葬式代は出すが延命治療はしないと明確に打ち出しているし、第十次石炭政策は海外炭の輸入途絶と言う前代未聞の事態でも起きない限りありえないのは、明らかだった。第十次石炭政策無しで、存続の自信があるヤマは、累積損失や石炭政策終了後の電力炭の納入価格の引き下げ圧力を考えれば皆無だった。  日本一の生産量を誇る炭鉱の会社幹部が口火を切った。 「この内容では、生き残れるところはないな。葬式代が出るうちに撤退するのが、一番傷が小さく済むかもしれない」 と、言うと、炭鉱以外の目ぼしい産業がない地域の炭鉱会社の幹部が、 「お宅はいいさ。閉山しても、炭鉱とは縁が切れてたり、多角化で乗り切れるグループ企業があるから、地域経済への影響はこの中ではマシな方だろう。だが、そうは問屋が卸さないところの方が多い。うちは、閉山したら何も残らない。長期存続のために鉱産税を減免してもらっているところだってある」 と、一私企業の都合だけは済まされない問題だと指摘する。  ある海底炭鉱の経営会社は、 「うちは、何とか残したい。だが、能率向上や省力化、平日稼働日内での稼働時間の確保による炭価の引き下げには限度がある。給与引き下げに手を付けなきゃならんが、陸とは違って、一週間通しの三交代勤務の仕事だ。仕事の過酷さに見合うものを払わなければ、誰もついてこない。誰もついてこないのでは、ヤマは残せない」 と、ヤマは残したいが、残すには政策終了後の炭価引き下げに応じられるコスト削減をしないといけない。それには、ストライキの原因になる給与に手を付けないことには、どうにもならないが、組合は存続か閉山か、腹を決めているのかと暗に尋ねる。 炭鉱労の中央執行委員は、腹を決めかねていた。茨の道を行ってヤマを残すのか、閉山交付金で退職金を確実に支給されるうちに閉山を受け入れるのか、政策の方針転換を国に飲ませるか、取りうる方針は三つあるが、一と二は勝手に決められないし、三に至ってはかつて行われた政策転換闘争の結果からして、完全に引っ繰り返せるとは思えない。数年の延命は期待できたとしても、鉱山の宿命である資源枯渇による閉山までは、存続できない。 「ポスト八次の答申内容は、国内の石炭鉱業に従事するものを馬鹿にしている。俺達が戦後復興や高度経済成長の足元を支えてきたのに、最終局面だ、国民の負担だと並べて、この仕打ちはない!組合の方針としては、政策の方針転換を要求し、それが容れられない場合は、最低でも経済採掘炭量枯渇時以外は政策終了直前までの存続を要求する」
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