石炭政策篇(ポスト八次)

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 炭鉱労の中央執行委員が、 「それは違う。忌憚なく胸の内を語たるべきだ。会社にヤマを残す気がないのに、組合が奔走したって、骨折り損だ。会社にヤマを残す気があるのなら、労使一丸で政策転換を要請し、転換が無理ならせめて長期存続につなげられる内容に近づけられるように、行動するべきだ」 と、労使ともに態度をはっきりさせなければ、要請どころではないと、日本石炭鉱業協会の会員企業に言う。労使一丸で行動しても、政策を引っ繰り返せるとは思えない。組合が一人踊りをしても、長期存続を勝ち取ることは叶わない。  日本で三指に入る生産量を誇る海底炭鉱の役員が、 「うちは、坑外運炭をやめて、選炭工場までベルトで揚炭するために古い斜坑を取り開けてる。人車も乗り換え無しで水平人車坑道まで行けるようにする計画を立てている。それに、今骨格坑道を展開している第八部内は炭層も厚いし、炭量も豊富にあるから、二、三十年は安泰だ。その後は更に深部に向かうか、情勢次第では展開済みの骨格坑道から着炭させて、手っ取り早く採掘できる場所を喰い潰しながら、浅部に上がってくるかだ。炭価の引き下げ対策は、省力化や稼働率向上での引き下げの余地が完全になくなってから、給与の削減を含めた人員関係の合理化をするつもりで居る。給与削減は飽く迄も最後の手段だが」 と、会社としては長期の操業を想定していると言う。給与削減は、飽く迄も最後の手段だが、炭価引き下げ圧力次第で実施せざるを得ないと……  長期存続に執念を燃やす会社があるなかで、石狩炭田のある炭鉱の役員は、 「うちは、自社の財務状況だけではなく、親会社やグループ会社の財務状況次第では、連鎖して、会社更生法の申請をしなければならない。グループ会社間で債務保証をしているが、どこかがこけても、おかしくない状況だ。掘れる炭が有るか無いかより、連鎖倒産の心配をしなければならない。組合には悪いが、政策終了直前持ちこたえる自信はない」 と、自社の財務状況だけで操業を続けられるか、決められる状況ではないと告白した。  連鎖倒産の心配をしなければならないと言う話を聞かされた会員企業は、噂には聞いていたが、そこまで深刻だったとは思わなかった。今も操業を続けられるのは、ある男の暗躍のお陰もあるのだろうが、政策による国内炭の取引協力と国の支援のお陰であると、再認識する。  会員企業も、炭鉱労ではないが、お荷物だ、退場しろと言われたら、流石に腹が立つ。戦中、戦後と国の無茶苦茶につきあわされ、軍需生産や戦後復興を支えてきた。特に戦時中は、生産に必要な物がないのに、炭を出せ出せと言われ濫掘をして、戦後の生産に多大な影響を与えた。戦後の傾斜生産方式や欧米の技術導入により、戦時中の濫掘による影響を脱して頃に、流体エネルギーである石油の台頭で、エネルギーの主力の座を奪われ、ジリ貧状態になってきた。スクラップ・アンド・ビルド政策による合理化の推進、それに伴う労使紛争、黄金期より内憂外患の時代の方が長く続いた。 「石炭鉱業協会としては、国産エネルギーである国内炭の現状維持を求める。炭価は現状の水準に据え置くか、引き下げ額は少額に抑える。政府が方針転換をしなかった場合は、政策終了後も操業を続ける炭鉱のために、炭価は少なくとも五年間は石炭生産審議会で決定する。海外炭の安定輸入のために、政策終了後も操業を続ける炭鉱を活用する。安定輸入に関わる事業を行う場合は、交付金や助成金を支給するを、基本方針するのは、どうだろう?」
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