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プロローグ
海外炭の安定輸入のための技術移転、閉山後の地域経済への影響軽減のお題目のもと、新会社での採炭を続けていた日本最後の坑内掘り炭鉱が、遂に最後の時を迎えた。
この日は、最後の採炭を行う一番方の入坑を前に、会社役員、労組執行部、関係省庁、選挙対策のためですと顔に書いてある与党議員が、挨拶をするということで、何時もより早く入坑前の番割が行われた。
班長詰所では、上席者が班長に今日の作業内容を指示する。最後の営業出炭日と言うこともあり、最後の出炭にケガ人や事故を出して、ミソをつけないように、保安第一で作業するようにと注意する。係員の少ない係は、そのまま班長詰所で班長から番割を受け、挨拶をすると言う面々が何を言うのかという話題で盛り上がっていた。
「燃料庁と議員様は、どの面を下げて、来るのかね?」
日本の石炭産業の没落を招いた当事者たちが何を語るのかと、ある係員が言う。
「燃料庁の役員は、ズリを投げつけられないだけでも、有り難く思わないと」
また別の係員は、燃料資源庁の所業からすればズリでもぶつけられて然るべきだが、ぶつけられないだけ有難く思えと、冷ややかに言う。
「石炭価格が高騰した時の彼奴等のアホ面と言ったら、なかったよな」
そして、また別の係員は、経済産業省の外局である燃料資源庁の無能と無策を扱き下ろす。
日本最後の純営業採炭を行っていた安岡春鳥炭砿の閉山から数年後、石炭の国際価格が高騰し、積出港のヤードに貯炭がないという前代未聞の状況が発生した。商社の人間曰く、金の問題ではない、石炭需要に対して供給が全く間に合っていない、こんなのは聞いたことも見たこともない、お手上げであると、白旗を上げた。
そんな状況下で注目が集まったのは、道内で露天掘りをしていた石狩炭田と留萌炭田の露天掘り炭鉱と、地元経済への影響軽減と技術移転のために新会社で坑内掘りを続けていたオソツナイ炭砿である。北海道電燈は、苫東の臨海大型石炭火力の燃料炭の枯渇に備え、道内の露天掘り炭鉱に増産を依頼し、燃料炭の確保に奔走している頃、国策会社として生を受けた日本水力火力開発は、燃料資源庁の役人と一緒に、オソツナイ炭砿に増産の依頼に来ていた。
その時のやり取りを、労組執行部の一員として、見聞きしていた係員は、それを思い出して語った。
「社長は、当たらず障らずの事しか言わないだろう。事務の人だから」
どの面を下げてと言った係員が言う。
「過激なことは言ってくれるなと言われているだろうが、我らが執行委員長は、嫌味の一言二言は吐くべな。二度も大好きなヤマを取り上げられるんだから……」
労組執行部に居た係員が二度もヤマを奪われる執行委員長が言うであろうことを言うと、上席者が、時間だから繰込所に集合するように言った。
まず、最初に、釧路鉱産株式会社代表取締役社長の平岸保が、入坑前の炭鉱マン達に挨拶する。
「前身の安岡春鳥炭砿の閉山後の地域経済への影響軽減、国内炭鉱で培われてきた技術を産炭国の明日を担う技術者に教授し、エネルギー安定供給を図るために、釧路鉱産株式会社が地元企業等の支援のもと設立され、十五年が経ちました。しかしながら、オソツナイ炭砿も、鉱山の宿命であります資源枯渇と言う非情な現実を突きつけられ、閉山の運びとなりました。本日の一番方で、オソツナイ炭砿は営業出炭を終え、撤収作業に入ることになります。坑口を密閉するまでは、保安確保に注意し、安全な作業に徹してください」
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