第4話(最終話) 自業自得

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第4話(最終話) 自業自得

 3Dゴーグルを上げた。目頭を押さえるが、事故の光景が脳裏を掠める。  私はコントローラーを置いて、パソコンをキーボード操作した。  自室にある自動車リモコン操縦ソフトは終了。椅子の背もたれに背中を預け、両足を投げ出す。慌てて自分体まで左右に揺らしてしまった。床に落ちた紙コップから、ジュースの染みは広がって行く。  ヘッドフォンから人工的な声がして、また3Dゴーグルはめる。  人型レスキューロボットの話し声だ。相手のトラックも無人だそうだ。  当たり前のことを、ロボットは生真面目に話す。  火災防止で無人消防車からは、アスファルトに白い泡の消化剤が撒かれている。黒い道路が白一色に染まる。  人型ポリスロボットからは、事故が発生した場所を管轄する警察署を紹介される。  ネットで警察署にログインをすれば、事故IDとパスワードがパソコンに送信される。  保険会社のホームページにログインをする。事故に巻き込まれたのを伝え、レッカー車を手配してもらう。後はロボットのレッカーサービスがトラックを修理工場まで運ぶ。  大事なの自分のトラックの状態だ。道路に設置された防犯カメラから、送信される映像では、かなり壊れているようだ。  小型でタイヤのあるレスキューロボットは、運転席や荷台に入る。人が存在しないのを、念のため確認していた。    警察署のホームページにログインして、事故の届出をする。  案の定、相手も人間がリモコン操縦していたそうだ。そうでなけらば、センターラインを越すはずがない。  相手から直接電話があり、事故の責任を認め謝罪している。私は、「修行が足りぬ!」と叱り、電話を切る。  インターホンが鳴る。人間の警察官が家まで訪ねて来た。  公道で、自動車運転をするのは、控えて欲しいそうだ。警察経由で同業者団体に連絡が入る。  寝る間も惜しんで自動車運転を修行した。それでも、同業者団体からの処分は怖い。  警察が帰れば、すぐに荷主さんと運送会社に謝罪のメールを送った。トラックが壊れてしまったので、また暫くは仕事にならない。   リモコン操縦トラックは、検索サイトで数時間かけても見つからない。ヒットするのは無人操縦トラックばかりだ。  同業者団体からのメールに目を通す。この時期に事故を起こしたことを、責める文面だ。  過失があったのは、私でないのにだ。  ふてくされてベッドで横になる。壁かけ式のアンティーク時計が視界の隅の留まった。針は午後3時を指し示していた。  3Dテレビをつける。   午後3時のニュースが流れる。政府はコンピューターが自動操縦する自動車にしか、公道を走らせない決定をした。  工学系の評論家は海外の例を上げる。交通事故が、ほぼなくなる喜びを隠せないでいる。  自動車運転手の各団代が、政府に公道を運転させて欲しいと陳情したのは、無駄に終った。    運転免許制度が廃止になってから、かなりの年月になる。日本国内では、歩道、自転車道、自動車道など、完全に分離されている。  私や同業者の“運転手”と呼ばれる伝統芸能は、一般交通社会からは消滅するのだ。(完)
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