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にわか雨
──それは突然襲ってきた。
さっきまでの青空が一気に暗くなるとバケツをひっくり返したような雨になった。
「おお、逃げるぞ」
僕は横を歩いていた女性にそういった。
「はい」
僕たちは近くにあった神社の鳥居をくぐると、境内にある大きな門の下に駆け込んで雨宿りをすることにした。
ザザザー
参道の石畳に当たった雨粒が勢いよく跳ね返っているのが見えた。
「このごろの雨は、にわか雨なんて言えないな、常に集中豪雨だ」
「そうですね凄いですよね、あ、そういや先生のアパートはこのすぐ先ですよね」
僕は大学院を出てすぐに大学に就職し、とある研究室で助手をしている。一緒にいる女性は同じ研究室のゼミ生、つまり大学生である。
「うん、須藤さんは一人暮らしだったっけ…」
「いえ、実家から通っています」
「そうなんだ」
「でも門限も何もかもゆるゆるです」
「ははは、そうなんだ、でもこんな綺麗な娘さんがいると、お父さん心配だろうな…」
須藤さんは門瓦から流れ落ちる激しい水滴を見つめた。その横顔は知的で美しかった。雨に打たれたシズル感が、その美しさにちょっとした色気を加えていた。
僕は少しの間見とれた。
そして…
「そうでもないですよ」
須藤さんはポツリと言った。
その口元は微笑んでいた。
「あ、そうなんだ」
僕は少し火照った顔を隠すため、視線を空に向けた。
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