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「君の言っていたことは本当だった。僕はあの妖に時間を盗ませていたみたいだ……」
「奴の組織はすでに私の仲間が検挙しています。盗まれた時間は無事に回収された、あなたが罪に問われぬよう、私が報告しておきます。この度は、残念なことでした……」
僕はすっかり熱を失って横たわる彼女にぽたぽたと涙の雨を降らしながら、蛍さんに言葉をこぼす。
「対価が僕の命だけだというなら、僕は喜んで時間を丑寅に盗ませたと思う」
「それは、自然の摂理に逆らう行為だ。あなたが亡くなった時、魂が彷徨って黄泉でこの女性と会えなくなる」
「そういうものなのか……」
「あの丑寅は悲しみに付け込んであなたを騙したのだ。このように同じ日を繰り返しても――いやなんでもない。このようなときに説教などするものではないのでしょう。あなたはもうわかっているはずだ」
同じ日を繰り返しても、しかたがないと――
「ですが……」
そう蛍さんは言葉を続けた。
「違う日ならば、やり直す価値があるでしょう。私は鬼火という妖です。あたなたの後悔を一つだけ焼き消すことができる」
蛍さんは小さな白い手に青い色をした炎をぽうっと浮かべた。ちょうど僕たちが思い浮かべる「火の玉」に見える。
蛍さんはその小さな炎を僕の額に押し当てて――
「あとはあなた次第です」
そう言い残すと、ぼんやりとした黎明の中に消えていった。
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