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その場で僕が見たものは、血まみれで細い道路に横たわる彼女の姿だった。彼女が持っていたバッグの中身が散乱していた。
何度も彼女の名前を呼ぶが、答えはない。
救急車を――! やっと頭が動き出して、震える手でスマホを扱おうとするが、うまく電話がかけられない。いたずらに時間だけが過ぎていく――
そんな時だ、かちっと秒針が動くような音がした、時刻はちょうど午前3時――
「黒川さん、時間をもらいに来ましたよ」
顔を上げると、にっこりと人のよさそうな顔をした若い男が立っている。ぱりっとしたスーツがこの場にはあまりにも似つかわしくなかった。
「救急車を! 警察を呼んでくれ!」
叫んだ僕に、男はにこりと微笑む。
「大丈夫、なかったことにしてあげます。私と契約してくださったでしょう? あなたの寿命の分、時間をくださるって。そうすれば、彼女が生きていた幸せな時間を何度だって繰り返せると――」
あなたが、生きている限り――そう、男は垂れ下がった大きな目をにぃっと細めた。
そうか――思い出した。昨夜も、同じことが起こった。
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