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「そこまでだ丑寅」
凛とした声が響いた。聞き覚えのある声が、僕の頭にわずかな冷静さを取り戻させてくれる。蛍さんだ。彼女が話していたことは、作り話などではなかった。全て、本当のことだったのだ。
「検非違使か……早いな。市民の血税を無駄にしているわけじゃぁなさそうだ」
「おまえを逮捕しにきた、現行犯だ、一緒に黄泉比良坂に帰ってもらうぞ」
「小娘一人で私をどうにかできるとでも?」
「おまえの仲間はすでに検挙されている。あとはおまえだけだ」
蛍さんがそう言うと、丑寅と呼ばれた男はにぃっと笑みを浮かべる。
「仕方ない、手を引こう。いい対価が見つかったのになぁ、残念だ」
「待て!」
「私を捕まえるのに、君では役不足だ。他の玄人を連れておいで」
そう言うと、男は闇に紛れて姿を消してしまう。蛍さんは捕まえようと必死になっていたのだと思うが、結局逃げられてしまったようだ。子供らしくしょげた顔をして僕の傍らにしゃがみこむ。
「こういうことだったか……人の弱みに付け込みよって、丑寅のやつ……許せぬ」
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