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僕が通報したことで、犯人はすぐに捕まった。無差別の物取りの犯行だった。命を奪う気はなかったが、現金の他に指輪を奪おうしたときに激しく抵抗され、結果、殺してしまったと犯人は語った。
彼女が乗り込んだ電車は踏切の機器不良の影響でかなり遅れ、到着後はバスが無いので歩いて帰っていたようだ。運悪くタクシーが見つからなかったのだろう。
その時に襲われた――。
僕はテレビから流れる無機質な音声を聞きながら、失われていく彼女のぬくもりのことを思い出していた。
どうやら残された僕は、今の生を精一杯生きるしかないらしい。
まるで生き地獄だ──
それでも、いつか黄泉で再会できる日を信じて前を向くしかない。
僕はリモコンのスイッチを押す。
眠れずに新月の空を見上げた。星たちは相変わらず静かに光を放っている。その光から目を反らすように、僕は窓を閉めた。
時刻は午前3時──ようやく睡魔に襲われた僕はベッドの上に身を投げ出すように倒れ込む。閉じた瞳の向こうに、青い炎がゆらゆらと揺らめいた気がした。
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