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アスパラガスビスケットを食べる話
デスクトップ上に表示されたデジタル時計が3時を刻んだ。
「そろそろおやつにしよう」
俺は誰にでもなくそう呟いて、作業する手を止めた。
そしてデスクワークで凝り固まった肩をほぐすために大きく伸びをする。
シャツは梅雨時の湿気でじっとりと汗ばんでおり、その感触はなんだか気持ち悪かった。
俺はタオルで身体を拭うと、ほうっとひとつため息を吐いた。
さて、今日は何を食べようか。
無愛想な机の引き出しを開けて中身を探る。
真っ先に指先に触れたのは、幼少の頃から食べ親しんだお菓子。
『ギンビス アスパラガス』
俺は袋を開けると、中のビスケットを無造作に1本取り出した。
いくつも連なる楕円の、先端の1つを咥え、折る。
ゆっくりと咀嚼すると、口の中にじんわりと塩味が広がる。
蒸し暑い季節はこの塩気が無性に恋しくなるのだ。
俺はもうひとつため息を吐くと、楕円をひとつ、またひとつと食べ進めていった。
1本のビスケットを食べ終えると、今度はなんだか喉が渇いてきた。
缶コーヒーでも買ってこようか。
俺は長時間の作業で重くなった腰をどうにか引き上げ、廊下の自販機目指して歩き出した。
甘い缶コーヒーで口の中の塩分を洗い流すと、少しばかり頭の中がすっきりしてきたように思える。
俺は2本目のビスケットを咥えると、改めてデスクトップの画面に目を向けた。
つい先ほどまでは、作業が進まない苛立ちや、視界を遮る汗のせいでよく見えていなかった画面も、今は少しクリアに見える。
俺は口の中でサクサクと軽快な音を立てながら、次々と画面をスクロールしていった。
袋の中身が空っぽになる頃には、もう幾分かの時間が過ぎてしまっていた。
少し名残惜しみつつも、俺は最後の1本を口の中に放り込む。
さて、そろそろ作業を再開しないとな。
俺は空っぽの袋と缶コーヒーを持って立ち上がると、ゴミ捨て場へと歩いていった。
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