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プラチナブロンドの彼女にまた出会ったのは、それから三日後の事だ。
肩で揺れるキラキラとした色に私の視線は釘付けとなった。
他のお母さん方もそうなのか、あからさまでは無いにしろチラチラと見る人ばかりだった。
平田さんと亀谷さんは相変わらず彼女が帰ってから悪口の華を咲かせていた。
内容としてはつまらないことで。やれ、子供のあやし方がどうとか。服装がちゃらちゃらしているだの。
挙句の果てには、根拠の無い噂めいたことを口にする始末だ。
「あの人、旦那さんおらんのちゃう?」
「ああ、確かに。見たことないもんなぁ!」
(私はあんた達の旦那さんも見たことないぞ)
「あれまだ10代やろ?子供が子供産んでまぁ」
「育児放棄とか虐待とかしそう」
(あんた達みたいな老け顔と一緒にするなよ。大体、それなら今のあんた達の方よっぽど子供だよ)
内心そんなツッコミを入れながら、息子を視界に入れつつ聞いていた。
やれやれ。ここは面倒な人間関係がないと思っていたが、そうでもないようだ。人の性というのは都会も田舎も変わらない。
そろそろ帰るか、と立ち上がる。
未だ人参を限刻もうと躍起になり、木の包丁を叩きつける息子。
「帰ろうか。お片付けしよう」
と声をかけた。
✩.*˚☽・:*✩.*˚
それからさらに三日後。その日は平田さんも亀谷さんも。いや、彼女たちだけでなく他に誰もセンターに来ていなかった。
なんか他でイベントでもあるのか、たまにそういう日がある。
私は他の所に行くのが億劫なので、人がいようがいまいが別に構わない。
今は職員も部屋に居ないので気が楽だ。
早速人参と包丁を手にしてニコニコとする息子の背中を眺めていた。
好きなことに夢中になる子供の後ろ姿というのは尊いものだ。
嗚呼。昼食何にするかな。なんかラーメン食べたい。こってりしたやつ。んで息子の離乳食は適当にストック品使うか。
そんなしょうもないこと、つらつらと考えていると足音が聞こえてきた。
だれか来たのか、と振り向くことはしない。別に誰が来ようがあまり興味がないからだ。それより昼食のラーメンは豚骨にするか味噌にするかの方が大事だ。
「………」
部屋に入ってきたブロンドヘア。相変わらずサラサラと艶のある髪だ。肩のあたりで優雅に揺れている。
「こんにちは」
顔を合わせて挨拶をしないなんていう選択はない。これでも私は大人なのだ。いくら他人に興味の薄い協調性の乏しいコミュ障と言えど。
私が挨拶をしたことに驚いたようで、大きな目を少し見開いて肩を震わせた。
そんなに驚かれるとは思わず、こちらも挙動不審になってしまう。
「………どうも」
彼女は静かに挨拶を返し、抱っこしている赤ちゃんをバウンサーに下ろした。
すやすやと眠る赤ちゃんの頬はとても白い。
ふむ、結構美形な赤ちゃんじゃあないか。
「可愛いですね」
素直に思ったことを口にすれば、また驚かれた。
「あ、ありがとう………」
なんだこの人。私よりコミュ障なのかもしれん。
そう思えば何だか仲間意識というか愛らしさすら感じてきた。
でもまぁそれならいっそうのこと、無理して話しかける必要はないな。
私はまた息子の相手をしながら、昼食のラーメンに想いを馳せる作業に戻った。
ラーメンと言えば袋麺くらいしか選択肢はないが、野菜は何をいれようか。この前見た深夜ドラマは本当に飯テロで参った。
サッ⚫ロ一番。食べたいなあ。
「たっ!あうっ!あうっ!」
息子が両手を上げてスクワットのような上下運動している。
ん?まさか。息子よ、まさかその人にアピールしているのか?
息子は綺麗な人が好きだ。同年代そっちのけでアピールに余念が無い。将来が楽しみなような心配なような………そんな子だ。
確かにそのお母さんは美人だな。分かるが、そういうのは時にとても気まずいから。
こちらの焦りなど意にも返さず、息子はトコトコと歩き彼女に近付く。
手には人参。恭しく跪き差し出した。
「………くれるの?ありがとう」
息子に視線を合わし、受け取ってくれたその笑顔はとても優しかった。
形の良い唇は穏やかに微笑み、細めた目は部屋の照明に反射してキラキラと輝いた。
「んば」
気が済んだ様子の息子はまた元の場所に戻り、今度は大根の玩具を叩き始めた。
ぺこ、とこちらに会釈をした彼女。
息子の行動で気持ちを和ませてくれたらしい。
「すんませんねぇ」
と済まなそうに笑えば、いえいえ……と応えてくれる。
なんだ。少し人見知りっぽいだけで、感じの良い人じゃあないか。
などと自分を思い切り棚に上げて思った。
「可愛いですね。3ヶ月、ですか?」
少し勇気を出して問いかけて見る。
「ええ」
「夜泣き、とかどうです?」
うちは結構酷いもんで、と付け加えれば。
「実はうちの子も………」
と肩を竦めた。
「ありゃあしんどいですよねぇ」
「ねぇ」
顔を見合わせて笑う。綺麗な人だが、こうして笑っていると更に可愛い。
微笑みながら、髪を指でくるくるといじっている。瞳と同じく陽の光に反射して。
「………綺麗」
「え」
あ。しまった。思ったことが口から出た。
「えっと、その。髪色、も素敵です」
こうなりゃ下手にぼかした方が失礼だ。
さっきより目を丸くして数秒。さすがにまずいか、謝ろうかと思った時だった。
「………ありがとう」
微笑む彼女の目は涙で潤んでいた。
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