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あたしの髪は金色だ。白に限りなく近い金色。
産まれながらの色素異常。アルビノともいうらしい。
肌も白いし日光にあまり強くない。目の色も人と違う。
そんなあたしを見て、人は様々な反応を示した。
嫌悪、好奇、侮蔑、同情、恐怖。
特にあたしを傷つけたのは同情だった。
気を遣い、見て見ぬふりをするのだ。
気を遣ってくれるのは優しさだ。彼らは優しいのだ。でもその優しさは、あたしの惨めな劣等感を呼び起こし苛んでいく。
分かっている。そんなことを感じる、あたしが一番病んでいるし歪んでいるってことを。
あたし自信が人と違うことを嫌悪している、偏見を感じているからこそ傷付くんだって。
でも知らず知らずのうちについた感情の癖は、なかなか強いものだった。
早々にあたしは髪を黒く染めることにした。
………黒くさえ染めれば、瞳はカラコンで誤魔化せば。人はあたしを同族だと認めてくれる。
白い肌は隠しようがないけど、それでもこのふたつさえ何とかすれば。
妊娠中も髪染めをしようと美容院を訪れた。
子供の頃から行っている所。あたしが『普通になるために』染めたいと言った時、軽く微笑んで黙って頷いた美容師。
『もし酷いことを言っていたらごめんね……少し黒染めはお休みしてみない?』
驚くあたしに美容師は続けた。
『貴女の髪色、すごく綺麗よ。素敵な色。もし黒く染める事で自分を更に傷付けているのなら、一度考えて見て欲しいの………貴女、染める時すごく辛そうな顔をしているから』
そう言いながらも髪を染める準備をする姿を見て、あたしは髪を染めるのをやめた。
あたしの姿を見て、酷い言葉を投げつけてくる人達はそんなに多くない。
まぁ心の中は分からないけれど。
………あたし自身はどうだろう。
長い妊娠期間を経て、娘を産んだ今もまだ自問している。
☀︎*.。☀︎*.。
「綺麗なものを綺麗と言って何が悪いの」
そう真顔で言い切るのは、あたしのママ友だ。
「ありがと。でも自分で言っててよく照れないよねぇ」
そう茶化すと、ようやくニヤリと笑った。
彼女が初めてあたしの髪を褒めた時、思わず泣いてしまった。なんで泣いたのか今でもあまり分からないけれど、目の前で明らかに動揺した彼女を見て今度はすごく笑えてきた。
泣いたり笑ったりするあたしを見て、彼女はどう思ったか分からない。でもあたしには初めて友達が出来た。
きっとあたしは嬉しかったのだろう。
同情も嫌悪もしなかった存在が。
付けていた髪飾りを褒めるように何の気なしに、皆が驚き時に眉を顰めるこの髪を褒めた。
「あたしさァ。平田さん達があたしの悪口言っても傷つかないんだ」
「ふぅん」
彼女は天気の話を聞くような顔で頷いた。
彼女の息子君は今日もおままごとをしている。
「元々、そういうのは慣れっこだったし。でも今は貴女がいるから」
「そうか………あ!」
突然彼女が声を上げた。
「娘ちゃん、笑った!ほら、今」
バウンサーに横たわる、うちの娘の口元が緩く弧を描いている。
「ね?」
「ほんとだ」
あんまり笑わない赤ちゃんなのに。
あたしと彼女、顔を見合わせて笑った。
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