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運命の出会いの瞬間は、電撃のように訪れるものだと聞いたことがある。出会った瞬間に、なぜか運命の人だと感じるらしい。私にとって先生が運命の人なのであれば、それはごく自然で平凡なものだった。他の人との出会いと何ら変わり映えしなかったに違いない。 というのも、私は先生との出会いをよく覚えていないのだ。なんと薄情な、と言われるかもしれない。しかし、何度思い出そうとしても曖昧な記憶が見え隠れするばかりなのだ。なぜ先生の家に住んでいるのか、いつ、どこで知り合ったのか、何一つ思い出せない。ぼんやりと覚えているのは、初めてこの家に上がったあの日、とても良い香りがしていたことだ。レースのカーテンから漏れる日差しに、目の前のハーブティーがキラキラ反射して眩しかったような気がする。 しかし、もしかすると、生まれた時から私はこの家にいるのかもしれない、とも思うのだ。ずっと昔からこの人のことを知っている。そんな気持ちにかられることがあるからだ。いくら考えても堂々巡りするばかりで、いつも私は考えるのをやめてしまう。きっと、これから先も思い出すことはないだろうと思う。
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