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すぐには何も感じなかった、でも、一拍おいて
静電気のようなぱちん、という音と共に耳に鋭い刺激が走った。
「いたっ!」
嘘ばっかり、かなり痛い。涙をにじんできた。
耳たぶがジンジンしていた。やり方を間違えたのだろうか。
涙のにじむ目のまま、キティちゃんの手鏡を耳のところにかざして、首をかしげるように覗いてみる。
耳をひっくり返してみたが、それほどハッキリと目立つ痕はない。血も、もちろん一滴も出ていなかった。
痛みは急速に遠のいていった。悪い夢が醒めるのよりも早いスピードで。
「……何だったんだろ?」
説明書には、やや大きな文字で更に追記があった。
――『イヤーエイカーパンチャー』は全て未使用品をお送りしておりますが、確実なデータ管理のために使用済のものは必ずセンターに御返送ください。ケースに戻し、添付の返信用封筒にて御返送ください。切手は不要です。御返送がない場合は本登録は完了となりません。
つまり、このヘンテコな器具を送り返したのを確認してから、あちらは私たちを『正式なメンバー』として認めてくれるらしい。
もう耳まで痛めてしまったんだし、何を恐れる必要があるんだろう?
器具を小箱に戻して、返信用封筒にそれを入れてきっちりと封をとめた。
翌朝の土曜日、郵便ポストに封筒を投函してから私はそっと、耳を触ってみた。
表側からは手が触れても全然何の感触もない。裏も、やや凹んでいるかな、という程度だった。しこりもない。
これなら家でも学校でもばれないだろう。弾む心で家に帰る。
翌日曜、休日だというのに早速メールが入っていた。『セル・センター』からの確認メールだった。
『おめでとうございます、本登録が完了しました』
おめでとう、という文字って、目がぱっちりした可愛い少女に見つめているような字並びに見える。
そあら先輩……いや、『おめ』だと無邪気なぱっちり目みたいだから、どちらかというとルネの目かな?
なぜか、ルネにわあ、よかったね! と両手をつかまれてぶんぶんフリ回すように祝福されているところを想像してしまった。そして脇でミホが拍手してる。
また私、変なこと考えている。ルネはぜんぜん関係ないのに。
それにミホだって。
……でも、少し落ちついたらこっそり打ち明けてみようか。ミホと、よかったらルネにも。
仲間に入る? って誘ってみても、いいかも。
ぞくりと何かが背中を伝わった。生温かい流れ。
イヤーエイクのついた耳たぶが一瞬ちくりと何かを告げた、その囁きはあまりにもかすかで、私は耳たぶを軽く押さえ、何も気づかないふりをした。
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