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「明日香ちゃん、もっと速く!」  ミホさんの声がワタシを引っ張り続ける。ワタシは更に走る。  大きな円筒状の壁のまわり、ずらりと並べられたカプセルを最初から順に辿りながら。  スタートからナンバー040か050くらいのあたりで、思い出していたのはなぜか中学の修学旅行で行った三十三間堂だった。ここのはあれほど密集している訳ではない、どっちかと言うと、お上品に一列に並んでいる、という感じだ。  でもここに並んでいるのは仏像ではなく、カプセルに入った生身の人間なんだ。  急に目眩をおぼえて、カプセルの一つによろめいて手をついた。  中身は少女だった。  ワタシと同じくらいだろう。大きな目を見開いたまま、固まっている。  口が何か、形作った。タスケテ?   いやだ、見なければよかった。  ミホさんが私の腕をつかんで引っ張る。「時間がない、早く!」  ワタシはまた、よろめきながら前へ進む。 「シオン! どこ?」  隣を走るミホさんが耐えきれずに叫んだ。でも、その声は中に囚われている人たちには聞こえてはいないだろう。  それにしても、なぜこんなにも沢山の若い人たちが、『セル』に大切なものー―自分自身――を与えてしまったのだろうか?  集中力が途切れる。  ミホさんがまたぐい、と引っ張った。いつの間にかまた止まっていたようだ。  まずい、ワタシ、カプセル内部の顔ぜんぜん確認できてない。あわてて意識を近い所に戻し、足に力を入れる。  人柱の前をワタシたちは次々と駆け抜けていった、070、071、まだまだだ。いつまでたっても終わりがないような気持ちになる。カプセルの並ぶ通路は本当に輪っかになっているんだろうか? ぐるりと一周して元の場所に戻れるんだろうか?   向うから同じようにシオンを捜しているはずのレイジにもまだ合流できていないし、前方からは足音ひとつ聞こえてこない。  もしかして、この回廊はらせん状にずっと地底深く伸びているのではないのだろうか?   不安はすぐにミホさんに伝わってしまったらしい。 「どうしたの」  ミホさんの足も止まる。  カプセル内の人間以外、どこまでも二人きりになった。 「大丈夫? 明日香ちゃん」 「この人たち……」  声がうつろに通路にこだました。  全部でどのくらい、いる……いや、あるんだろう?  ただ、絞られるためだけに。  怖い、これ以上奥に進めない。 『お集まりの皆さま』  急に、爽やかな男性の声が天井から響く。 『出入口近く、中央バルコニー前にお集まりください』  壁に作りつけのスピーカーでもあるのか、声は妙に近く感じる。 『只今より、コア抽出を行います、至急、中央バルコニー前にお集まりください』  それでもワタシは、動けなかった。  ワタシもきっとじき捕まって、この中に閉じ込められる……全裸で。ケーブルやチューブに繋がれて、そして  コアを抽出される……全てを絞られ、吸い尽されるのだ。  時は迫っている。
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