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メールが送られてきたので、さっそくイヤーエイカーズ・セルのサイトにアクセスした。
『セル・ネーム』は、少し前に思いついていた『ライム』にした。
自分の名前から連想した名前だった。カナで入力して、接続の間を待つ。
こんな簡単なネーム、重複登録者がいるんじゃないか? と最初は心配したけど、特に問題はないようだった、ライムという名前はすぐに承認された。
サイトに「ライム」の名前とパスワードを入力してログイン、間もなく
『イヤーエイカーズ・セルにようこそ ライムさん
あなたは私たちの大切なセル』
の文字が現れた。
登録者情報をじっくりと読んでみた。
基本情報のおしまい、『大切なもの』の欄、確かに
『未歩との中学三年間の思い出』
と入っていた。
すでに入力や変更のできる画面ではない、サイトの中にしっかりとそう書かれている
ポイントはなぜか60ポイントついている。入会特典の10ポイントの他に50ポイント。
明細には単に『換算分』としかない。
「換算分? 何だろ」
おいおい意味も分るようになるだろう、と深く考えずにスクロールダウンして、ついに、一番下にたどり着く。
大きな四角いアイコンが『セルからのお願い』の文字を光らせていた。
何の気なしにそのアイコンをクリックした。
『セルからのお願い
あなたの『大切なもの』を私たちセルに寄付してください』
意味が掴めない。何度もその文字を読み返す。
「寄付して、ください……?」
更に先を読む。
さらっと書かれている内容にだんだんと背筋が冷たくなってきた。
『セルはみなさまの大切なものを守ります。そして、みなさまもセルの一員として大切なものを共有し、守り育てていかねばなりません。
セルの一員として、ライムさんにも大切なものを寄付して頂く必要があります。まず……』
「何で……」
『大切なものの欄でお答えくださった内容の寄付をお願いいたします』
読んでいる途中で、急に目の前が真っ暗になる。頭の中で何かがガンガンと鳴っていた、それは耳につけた『イヤーエイク』から発しているようにも思えた。
耳が痛い、ものすごく。最初に装着した時の何倍も痛む。
「何よこれ」
私は耳たぶをひっかいて、爪の先で裏にぽつりとついているピアスを掻き取ろうとした。
「何これ、詐欺じゃん、何よこれ」
耳に圧着されたピアス、いや、イヤーエイクはすっかり皮膚の一部分になってしまったようだ、触ってみると確かに固い何かが当たるのだが、皮膚には継ぎ目ひとつ見当たらず、もちろん爪にひっかかるものは皆無だった。
芯が思いのほか深い。指で耳たぶをぐりぐりと揉んでみるが、あんな単純な器具で押さえつけた割にはイヤーエイクはがっちりと私の日常に食い込んでしまっていた。
「何……なんだよこれ!」
つい乱暴な口調になる。涙目のまま、画面を隅から隅までまた読んでみた。目が泳いでしまう。でも、ようやくこんな文字をみつけた。
『寄付の方法についてご不明な点がありましたら、セル・コールセンターにお電話ください。それぞれのケースに応じたご寄付の具体的対応方法を御相談させて頂きます(1ポイント使用)』
すぐさま、コールセンターに電話を入れた。
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