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ピアスの外し方、退会の方法を聞かなきゃ。
しかしコールセンターからの第一声はこれだった。
「イヤーエイクをいったん装着されますと、外すのは不可能なのです」
相手の声は温かく同情的だった。でも、語られる内容に凍りついた。
「また、イヤーエイクが装着された状態では、セル会員からの退会はできない、とご利用規約に明記されておりまして、それに同意されているはずなのですが」
話を聞きながら、また耳がズキンと痛んだ。
私は反射的に電話を切ってしまった。
すぐに後悔し、またかけ直す。今度はなかなかつながらない。
これは罰が当たったに違いない、泣きそうな思いで何度も番号をプッシュする。
ようやくまたコールセンターにつながった。
相手の声は先ほどと少し違う人物だったようで、ややハスキーな感じではあったが、語り口の穏やかさは判で押したようだった。
延々と、退会ができない旨説明を受けながら、気づいたら私は声に出して泣いていた。
相手もそれに気づいたらしく
「あの……ライムさま、だいじょうぶですか」
気遣うような声音だった。
「だって……」
つい泣きじゃくってしまう。
「どうしたらいいのか、分かんなくなっちゃって」
「お察し申し上げます」
意外なくらい、同情的。そしてそのハスキーな女声はこう続ける。
「どうでしょうか、大切なものをいったん、セルに預ける、というふうにお考えになられては?」
「預ける?」
「そうです、取り上げられる、と思うから悲しくなるのではないんでしょうか?」
「だって、取り上げようとしてるんでしょ?」
そあら先輩のことばをまた思い出していた。
「大切なものは、ポイントに換算されるのです」
電話口の向うから忍耐強い説明口調が続く。
「アナタの大切なものを、より価値のあるポイントとしてまたご利用いただけるのですよ、しかも、大切なものを寄付されて私どもの活動をより活性化して頂き、それを更に会員の皆様の幸せのために還元して頂けるのですから非常に有意義な」
「……どうしてセルは個人の大切なものなんて集めるの? ただ、人からダイジなものを取っていって陰で笑っているだけじゃないの?」
「そんなことはございません」
声は真摯な響きをもってそう否定した。
「なぜみなさまに、イヤーエイクを装着して頂くか簡単にご説明させて頂きます、サイトにも一応書かせていただいてますが」
急に、何もかもバカらしくなってそのまま黙っていた。
相手はそれを同意のしるしと受け取ったようだ。少し早口になった声がそのまま続けている。
私はぼんやりと聞き流していた。
「……それでは、ライムさまの大切なものについてですが、ご寄付の方法について御提案させていただきます……」
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