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第四話 深追いはしない
「背後に何か心温まるストーリーみたいなのがあればいいね」
曇り空の下、大学のキャンパスでランチをしていると、純はそう言った。
「そうだね~、それもいいけど、なんていうか、あの女の人って人混みの中から誰かを探してるっていうか、獲物を追ってるような感じなんだよね」
純はなんだか怖くなってきたと言いだし、復讐を誓った相手を探してたりしてと推測しては鈴子、変なことに巻き込まれないでよと私に念をしてきた。
「うーん、でもあの人って『そうじゃない人』って感じなんだよね」
「何それ」
不思議そうな顔をする純に、私は善か悪かと問われたら、あの人は悪人ではないような気がすると言った。
「・・・。よくわからないけど、鈴子の目をそれほど惹きつけるなんてよっぽどなんだろうね」
そのとき純の携帯が鳴った。
「もしー。うん、今?ヒマしてる」
私はぅおい!と言いながらも、こんな話つまらないかと思い、彼氏とこの後の約束をする純の横顔にため息をついた。
「琢磨くんがしたいことでいいよ」
元カノは何がしたい?とかどこへ行きたい?とか、何か食べたいものある?などの質問に全て俺任せだった。
始めの頃はありがたいと思ったけれど、最後の方にはもうたくさんだと感じていた。
鈴子は地元の友だちで、中高が一緒だった。
恋愛関係ではないけれど、何時間話していても気楽だし、イライラすることもない。
ただなんというか、ひとつの事に注目しすぎることがある。
駅で見かける女性をちょっと気になると言い出したときはふーんとだけ思ったが、会う度にその人のことを話してくるのが正直謎だ。
自分は赤の他人にそこまで心を奪われたことがないので、最近ではそんなに気にする必要はないのではと示唆するべきかと考えている。
「これみよがしにうんざりした顔すりゃいいんじゃねーの?」
中学の頃から俺と鈴子の仲をからかってくる賢は言った。
「琢磨はときどき偽善者になるからなぁ」
「そんなことねーよ」
ムッとする俺に、賢はいーやと言って、昔から女子には手当たり次第にいい顔をしていたと否定した。
「お前みたいに暴言吐いて嫌われたくないからな」
俺の部屋でゴロゴロしながらテレビを見ている賢は、さっきから同じCMばかりやっているとぶつぶつ言って人の話をあまり聞いていない。
「最初が肝心だぞ~。一度聞いてやったら鈴子はお前がそのどうでもいい話を必ず聞いてくれると思うだろうな」
既に鈴子にはそうみなされているだろうなと思いながら、次に彼女に会うときは他人のことはもう気に欠けないでおこうと言うんだと自分に言い聞かせた。
だがその考えが藪蛇になるとは想定外だった。
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