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第二話 walking dream
「振りをしてるんじゃないか?」
琢磨がそう言うので私は何が?とスマホから顔をあげた。
「その改札の女の人。実は誰も来ないのに待ってるとか」
私は思わず全身をこわばらせると怖いこと言わないでよと言った。
「彼氏に置き去りにされたけど待ち続けてるんじゃん?」
琢磨が変な妄想をするので私まで本当は彼女が幽霊で、手に入らない恋人を待ち続けているように思えてきてしまった。
「そんな理由だったら切ないな・・・」
私はあの女の人の心中を察した。
「鈴子が見たのって生身の人間だった?」
この話を大学の友達にしようか琢磨にしようか迷ったのだが、選択を間違えたなと思った。
「ちゃんと足あったよ」
それを聞くと琢磨は俺の第六感割と当たるんだけどなぁと首を傾げた。
「それか超A級スナイパーで誰かを狙ってるとか」
琢磨は色々真剣に想像しては、それならば未然に防いだ方がいいのだろうかとぶつぶつ言いだした。
「もしかしたら手に手を取って駆け落ちするための相手を待ってるとか」
私が目をキラキラさせてそう言うと、琢磨は途端に興味を失い、もう少し情報が必要だなとこの話題を終わらせた。
どのようなモチベーションで同じ時間、同じ場所であの女性は立っているのだろう。
そんなことを思いながらぼんやりとマドラーやミルクを補充していると、正午が近付き、瞬く間にお客さんの行列ができてしまった。
カップやトレーの返却場所が溜まってきたので片付けに行くと、背後に人の気配を感じた。
振り返るとそこにはあの女性が立っていた。
想像以上に儚い印象だ。
「・・・。あ、えっとお済みのカップをいただきますね」
「ごちそうさまです」
とても控えめな声で彼女はそう言うと、絶え間なく入店してくる客の間をぬって姿を消した。
「実在した・・・」
呆然としながらも、なんだか立体映像を目にしたような感覚を拭えなかった。
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