第一話 仮説にすぎない

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第一話 仮説にすぎない

知る必要があると思った。 改札口の手前にいつも三時に姿を現す女性がいる。 私のバイト先のカフェは駅の構内にあり、年中無休で営業している。 あるとき昼のピークが終わって、ランチの案内パネルを片付けながら、ヒマつぶし程度に外に目をやると、彼女の姿が目に入った。 これから電車を利用するという様子もなく、手にはドライフラワーのような物を持ち、改札の方を向いてたたずんでいる。 彼女の表情はこちらからは見えないが、なんとなく背中から焦燥感のようなものが感じられて、待ち合わせの相手が遅れているのだろうかと思った。 滞りなく下車してくる人々の中に、目当ての人物はいないようで、彼女の後姿から瞬きもせずに虚空を睨んでいるような気がしてきた。 「あの人待ちぼうけですかね」 いたずらっぽく店長の八木(やぎ)さんに言うと、彼はカウンターの横のレジから身を乗り出して遠くにいる女性の方に目をやった。 「・・・。品がありそうな人だな」 たしかに後姿はすらっとしていて文句のつけようがない。 「でもなんだか機嫌悪そうですよ」 あれは間違いなくしばらく放置されてますねと面白半分に言う私に、八木さんは苦笑いすると、放っておけとつぶやいた。 「それよりこれ、置きっぱなしだぞ」 八木さんはテーブルに置かれた布巾を指でつまむと、私の方に投げてよこした。 全てのテーブルを拭き終わり、改札の方に目線を送ると彼女は既に姿を消してしまっていた。 「あれっ?」 「どうした?」 「いなくなっちゃいました」 八木さんは興味のない顔で相手が来たのだろうと言うと、食事をを取りに行ってしまった。 つまらないなと思いながらも、なぜあの女性に強烈な印象を持ったのだろうかと疑問符が浮かんだ。 そして数日後、新たな展開が起こることになる。
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