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父子の七月七日
七月六日。二十三時五十四分。運転席の智の横には一年付き合った優里がおり、その後部座席には、優里の息子である大知が寝息を立てている。
智の車のまわりにも数台の車がライトを消したまま、静かに息を潜めていた。
この場所は智が学生の頃、寮住まいをしていた近くで地元の人からは満点の星空を眺める場所として密かに愛されていた。
たまたま、その話を優里と大知にしたものだから、大知は見たい!と手をあげて智にお願いをしてきたのだ。
大知はまだ五歳。夜更かしは難しいかなとも思ったが、それでも優里と籍をいれる前に思い出を作りたいと夜中に愛車を飛ばしてここにいる。
「やっぱり寝ちゃったね」
後部座席の大知の寝顔を見つめて優里は静かに笑ったが、智にとっては残念な気持ちはない。
この日のために翌日は休日をいただいている。
朝日が昇るまでに大知が目を覚ませば、空に広がる星空を眺めることができる。
大知の目の前で七夕の願いを口にすることができる。
大知のお父さんになりたいと。
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