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第20話 魔力0の大賢者、魔導人形に挑戦する
sideガーランド
ふふ、上手く言った。こうも上手くことが進むとはな。最初にあのラクナ用に用意した魔導人形だが、実はあれは全ての素材がミスリルというわけではなかった。
素材の一部に銅を含めて作られた劣化版と言える代物なのだ。本来は兵士の自信をつけるために作られた物だが、上手くいった。勿論このことはあのワグナーも知っている。
態度が不自然にならんようラクナには真実は伝えないようにさせてるが、あんなに喜ぶとはいい気なものだ。まぁあの年齢で魔力100は今後私の手駒にするには丁度よいからな。今自信つけておくのはいいことだろう。
だが、今回重要なのはそこだけではない。むしろ本番はここからだ。
「ガーランド将軍、代わりの魔導人形お持ちいたしました」
「うむ、ならば配置を頼む」
「ハッ!」
兵士があの魔導人形を並べた。この日のために、そうあの大賢者を名乗るマゼルやそれを自慢するナモナイ・ローランに恥をかかせるために準備したものだ。
そう、この魔導人形はラクナが相手した劣化版とは違う。それどころか軍で使用しているものより遥かに頑丈だ。
何せこの魔導人形にはあの伝説の金属オリハルコンと更にミスリルよりも更に珍しいハイミスリルを混ぜて作られた合金、ハイミスコンを利用して作られている。勿論見た目でばれないよう表面的にはハイミスリル部分が目立つようにな。ハイミスリルとミスリルは見た目には全く差がないから目で見ただけでは判別がつかん。鑑定魔法への対策もしてあるからそれも問題無い。
……そういえばあのガキ、ミスリルは衝撃に弱いとかわけのわからないことを抜かしていたな。
アホなのか? ミスリルは発見された当時は奇跡の金属とさえ称された代物だぞ。物理的には勿論魔法にも耐性があり、ミスリル製の鎧など下手な戦士じゃ絶対に傷つけられない。ある程度の腕前をもった者が強化魔法で己を強化することでようやく傷つけることが出来る、それがミスリルだ。だからこそ人々はラクナの偉業に歓喜したのだ。
まぁ、少しでも大賢者らしいとこを見せようと適当な知識でもひけらかしたってところか。愚かなやつだ。
とにもかくにも今回はより貴重で強力なハイミスリルとオリハルコンの合金だ。オリハルコンは強力だがあまりに硬すぎて加工しにくいという欠点があった。一方ハイミスリルは錬金魔法を使えれば加工そのものは可能。
そこで生まれたのがオリハルコンとハイミスリルを組み合わせた合金よ。これによって物理的にも魔法的にも強力な耐性を誇る魔導人形が出来上がった。
おまけに他の魔導人形と同じ様に物理耐性を上げる術式と魔法耐性を更に上げる術式を組み合わせている。
これにより巨人の一撃にも耐え、更に大魔導師が行使するような大魔法でも傷つかぬ最強の魔導人形が完成した。
尤もこれは軍に正式採用されているものではなく、ほぼ私の懐から出費することとなり大枚を叩くことにはなったがな。何せ一体につき約金貨10万枚だ。
正直言えばここまでする必要があるのか? という気持ちはある。魔力0で生まれたゼロの大賢者の伝説などきっと誇張されたものであり、本当はそこまでの存在ではなく、偶然に偶然が重なって持ち上げられることになったに過ぎないと考えてもいる。
そうでなければ魔力0で魔法など使えるわけがないからだ。
だが、念の為ということもある。もしこの男が本当に大賢者の素質があったなら、つまり過去の伝承も本物であり魔力0であることがゼロの大賢者の再来に繋がるというならこの先必ず我が野望の障害になる。
私はこの王国を軍事国家に変えるのを目標にしている。そしてかつて存在したような一大帝国を築き上げるのが我が生涯の夢だ。しかしかつて存在した帝国はあのゼロの大賢者の手で滅ぼされたという。
故に今この大陸に帝国は存在しない。だからこそ私がこの大陸に帝国を復興させ、この世の覇者となるのだ!
だからこそ、ほんの僅かでもこの男に大賢者の可能性があるのなら潰しておく必要がある。だが、流石にあまり直接的な手には出られぬしな。
そんな折にこの舞台だ。私にとっては渡りに船だった。子飼いにしているワグナー家も協力を惜しまないと言ってきた。当然だ。すっかり落ちぶれてしまっていたワグナー家は私の先祖の協力でこうして日の目を浴びるようになったのだからな。
何よりワグナー家も大賢者の再来をよく思っていない。それに、ローラン家も私にとって邪魔な存在だ。イナ麦を利用してオムス公国に取り入ろうなどと浅ましい連中だ。
今宵もローランの奴らは米を使った料理を振る舞うという。そっちはそっちで手はあるが、ここで徹底的に叩いて置かなければな。大賢者の実力が実は大したことがないと知らしめれば大分堪えることだろう。そのうえで米のアピールも失敗すれば立ち直れないほどのダメージを受けるに違いない。
ただでさえ最近は落ち目なローラン家だ。更にここで大賢者マゼルのメッキが剥がれ、イナ麦の宣伝も失敗すれば評判も地に落ち、もう二度と表舞台に立てないことは間違いない。
ふふ、さて大賢者が挑戦する番だな。もしかしたら多少は魔法が使えることもあるかもしれないが、魔力0の大賢者は大器晩成型と聞く。そのようなものがあの特別製の魔導人形を傷つけることなど不可能。
大した結果が出なければ当然注目は最初に挑戦したあのラクナに向き、反対にマゼルは嘲笑の対象となる。貴様らは多くの貴族が集まる衆目の場で恥を晒すのだ。
ふふ、さて準備は整ったようだな。
「さぁ、それでは準備も整ったし始めてもらうとするか。ところでラクナは攻撃を許可するよう求めたがお前はどうする?」
「同じ条件でお願いします」
馬鹿が掛かりおった! ふふ、確かにここで条件を変えればその時点でラクナより下だと宣言しているようなものだからな。
だが当然この攻撃の動作もラクナとはことなる。この魔導人形は限りなく実戦に近い形で攻撃を仕掛けるよう術式を組み込んである。動きもパワーもラクナの時とは段違いだ。攻撃性も高く、一度起動すればマゼルを徹底的に痛めつけに入る。そうなれば魔法どころではないかもな。
勿論命まで取るつもりはないが、骨の5、6本は覚悟してもらうとしよう。ハッハッハ!
◇◆◇
sideマゼル
「さぁ、それでは準備も整ったし始めてもらうとするか。ところでラクナは攻撃を許可するよう求めたがお前はどうする?」
「同じ条件でお願いします」
「そうか……怪我には気をつけるのだぞ」
「はい、お気遣いありがとうございます」
いよいよだ……正直最初は無理でも仕方ないかと思ったけど、僕をここまで大事に育ててくれた家族のためにも、諦めるわけにはやっぱりいかない。
だからできるだけのことはしないとね。
「始め!」
さぁ遂に始まったぞ。魔導人形も一斉に動き始めた。ここで問題なのは魔導人形に物理耐性が備わっているということだ。僕は魔法が使えないから物理が効かないとなるとどうしようもない。
とにかく、先ずその耐性がどの程度なのか知る必要があるよね。だから、とりあえず軽く一発入れて様子見と行こうかな。
それにしても、今回は最初から魔導人形も飛ばしてくるね。開始の合図と同時に5体の人形が纏めて飛び込んできたよ。
でも、動きはそんなに速くないし、やっぱりちゃんと怪我がないよう調整してくれてるんだろうね。
さて、と。それじゃあ先ず先頭の一体に軽く一発。
――パァアアン! パパパパパパパァアン! ドゴッ! グシャ!
――パラパラパラ…………。
「「「……は? はぁああぁああ!?」」」
「「「「「「「「………………」」」」」」」」
え? あ、あれぇ~? 様子見で軽くパンチを一発打っただけなのに、何故か魔導人形が一斉に粉々に砕けちゃったんだけど、あれ? 物理耐性、あるんだよね?
僕はキョロキョロと辺りを確認する。ガーランド将軍とワグナー親子は顎が地面につくかのごとく開ききっていて目玉が飛び出んばかりに見開かれて、鼻水が飛び出ている。
見ている人たちも静まり返ってしまっていて、なんとも言えない沈黙がこの場を支配してしまった。
「……あれ? 僕、もしかしてやらかしちゃいました?」
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