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第2話 魔力0の大賢者、妹が出来る
早いものであれからもう5年がすぎた。僕は今年で5歳になった。ちなみに当初は前世のことを引きずってわしと呼称してたけど、流石に子どもでわしはおかしいから僕と変えてそれからずっと僕と使ってるうちに僕は僕になっていた。
あれから僕は、正確には2歳になってから僕は本格的に家の中にあった書物を読み始めた。
父が、2歳にして文字が読めるとはさすが大賢者の生まれ変わりだ! などと大げさなことを言っていてちょっとドキッとしたけど、別に転生がばれたわけではなかった。
ただ、ローラン家の先祖、つまり僕の世話をしてくれたあいつが、偉大なる大賢者様の魂はいずれ必ず後世に生まれ変わり、再び伝説を築き上げることだろう! などと無責任なことを記したらしい。
いや、当たってはいたけどね。それはそれとして、気になったのはその大賢者、つまり僕の前世についてだ。
何せ父と母も僕が魔力0だったことを嘆くどころか大喜びだったし、これはおかしいと僕に関する文献を探して読んだんだ。
正直、自分で自分のことが書かれた本を読むというのも気恥ずかしさもあったし、何より僕に関する本がこんなに大量に出回っていることに驚いた。
何せ僕は最後にあれだけのことを暴露したんだ。史上最悪の大うそつきや最悪の詐欺師と称されていても仕方ないぐらいの気持ちだった。
だけど――僕の最後の言葉は何故か偉人の遺した言葉として記録されていた。しかもその内容が。
――大賢者マゼルは今際の際に後世へこの言葉を残した。
『私は魔法など使えはしなかった。それは魔法というものは知れば知るほど奥深いものであり、いくら研究を積み重ねようと決してたどり着けない連綿と続く道、魔道であったからだ。私は確かに数多の魔法を構築し行使してきた。だが、それも私にとっては正解ではなく、その全てが未完成であったのだ。だからこそ敢えて私は最後にこの言葉を残すのだ。私はこの最期の時を持ってしても一つも納得のいく魔法など使えはしなかったと――この言葉をどう捉えるかは見聞きしたものの個々の解釈に任せよう。だがこれだけは覚えておくといい、魔道とは、始まりはあっても決して終わりなどのない永遠の命題なのだということを――』
いや、誰だよこれ! これを読んだ時、僕は思わずそう叫んだものだ。それを聞きつけた父が部屋にやってきて、僕が読んでいた僕自身に関しての本の内容について熱く語ってきたりもした。
それがまた恥ずかしくもあったんだけど……とにかく、未だに僕が残したとされる言葉を思い出すと頭が痛くなる。ちなみにこれをきっかけに僕はもう僕に関する本を読むのをやめた。恥ずかしすぎだからね。
それにしても、そもそも本当に僕が残した言葉は魔法が使えない、というその1点だけだったのに。しかし、僕が残した言葉をあんなにも長い文章にして後世に記したのはあのナイス・ローランだった。あいつ、一体何をどう聞いたらあんな解釈になるんだよ……。
だいたい周りには他にも沢山いただろ。誰一人疑問に思わなかったのか? 書いてることの99.9%が事実と異なるってこれもう捏造もいいとこだよ。
とにかくそんなわけで結局あれから500年……そう僕が死んでから既に500年の時が流れていた。そしてこの500年後においても前世の僕は偉大な大賢者扱い。
しかもなまじ魔力0の大賢者という肩書が神格化されてたものだから、魔力0で生まれたものは偉大な大賢者になれるというわけのわからない伝説まで生まれてしまっていた。
そしてそれが今の僕の状態ってわけだ。
はぁ、全く。ナイスも余計なことをしてくれたよ。まさか魔力0なのにありがたがられるとは思わなかった。父さんも母さんもいい人で前世の両親とは段違いだけど、僕に対する期待と関心が重い。
「お兄ちゃん、お本よんで~」
僕が一人頭を悩ませていると、トテトテと可愛らしい幼女が近づいてきた。
この、目に入れても痛くない最高に可愛らしい女の子は、実は僕の妹だったりする。僕が魔力鑑定を受けた後に生まれてきた妹で今年で3歳になる。
つまり僕の2つしたってわけだ。前世では僕はすぐに捨てられて血の繋がった家族に関する記憶は薄い。だからこそ前世も含めて初めて出来た兄妹に感動したものだ。妹のこの可愛らしさは父性を刺激して絶対に守ってやるからね! という気になってしまう。
「うん、勿論だよ」
「わ~いわ~い」
ツインテールにした髪を上下にぴょこぴょこ揺らしながら喜ぶ妹が可愛い。髪の色は秋に畑いっぱいに拡がる麦畑のように自然な金色。
産みたての卵のようにツルンとした輪郭。そしてぱっちりとした大きな碧眼に桜色の唇。可愛いを全て詰め込んだらこんなにも愛らしい妹が出来ましたといったところかな。ちなみに名前はラーサという。心のお守りにしたい愛らしい名前だ。
そんな愛妹のラーサが読んでいるのは、風魔法の全て(応用編)……。うん、ある程度魔法が扱えるようになった人が本来読む物だね。魔法系の学院に入って2年目ぐらいで理解できる内容だと思うけど、3歳でこれを読もうとするなんて天才か! いや、それ以前に。
「これが読めるレベルならもう一人で読めるんじゃないか?」
「う~ん、お兄ちゃんに読んでもらいたいの!」
お、おお。なんて、なんて可愛い!
「そうか~そんなにお兄ちゃんに読んでもらいたいか~」
「うんうん、だってママとパパが言ってたもん。お兄ちゃんはゼロの大賢者の再来だから、将来は世界を背負って立つ英雄になれるって」
父様も母様も妹に何いってくれてるの~~~~! いやいや、違うから。僕はそんな大層な魔法使いじゃないから。だからそんな期待のこもった瞳でみないで!
「で、ここの解釈はこうで……」
「わ~お兄ちゃんすっご~い」
ま、聞かせてはあげたけどね。何せ一応魔法には前世から興味があったし、転生してからも屋敷内にある蔵書は貪るように読んだから、魔力が0でも知識には自信があるんだ。
でも、結局普通の、つまり魔力を使った魔法は使えなかったけどね。本当、何度試しても駄目だった。
何せ僕の魔力は今も変わらず0だ。定期的に魔力測定はあるんだけどその度に何の変化もなく0だ。
だけど、何故かその度に両親は喜ぶんだけどね。魔力0なのに。
一方妹のラーサだけど、僕と同じ様に行った1歳のときの魔力測定でなんと驚異の150という数字を叩き出した。
普通は1歳での魔力測定で計れる魔力は3~10程度とされていて、大体5以上あればそれなりの魔法を扱えるレベルとされている。そして成人した魔術士でも魔力が100を超えることはそうはない。
こう言えば妹の魔法に関する素質がどれだけのものかわかるというものだろう。
「おおラーサ。後の大賢者マゼルに魔法を教えてもらっているのか」
「うん! お兄ちゃんに教えてもらえるとすごくわかりやすいの~」
「ふむ、さすが後の大賢者マゼルだな!」
「父様。その呼び方はやめてください。流石に恥ずかしいです……」
「何を恥ずかしがることがある! お前は何せあの大賢者と同じ魔力0として生まれたのだから、これはもはや天命としかいいようがないだろう!」
凄く熱弁された。なぜここまで盲信出来るのか……大体僕は……。
「父様。そうは言いますが僕は未だ何一つ魔法がつかえないのですよ……」
「ふむ、なるほど……やはりな」
父様がニヤリと悪い笑みを浮かべる。な、なんだ?
「文献にもあったことだが、大賢者様もやはり魔法に目覚めるまで時間がかかったらしい。本格的に魔法が扱えるようになったのは18歳になってからとあるしな。つまり魔力0で生まれたものは大器晩成型ということだ。だからむしろ安心していい!」
いや、全然安心できないし。それにその話の人物が僕だからね。18歳になってから魔法っぽいことが出来るようになったのは確かに修行の成果なんだけど、それはもう魔法じゃないから。
「それに、今は魔法が使えなくてもお前には魔法を学問する上でもっとも大切な勤勉さが備わっている。何せ2歳にしてこの屋敷の本をすべて読んでしまったのだからな。それだけでも父は誇りに思うのだ」
まぁ、前世から本を読むのは早かったからね。この屋敷には一万冊の本があったけどそれぐらいなら2年で読めてしまう。
「それじゃあ、しっかりお兄ちゃんに教えてもらいなさい」
「うん!」
そして父は部屋を出ていった。しかし、教えると言っても本の内容について以外は特には……。
「お兄ちゃん! 早速魔法を教えてほしいの!」
おっと、しかし妹の知識欲もすごいな。まだ読み足りないのだろうか?
「いいぞ。次は何を読もうかな?」
「ううん。お本はもういいの」
「ん? ならどうしたいのかな?」
「んとね。ラーサはお兄ちゃんの魔法がみたいの!」
え?
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