第1話 魔力0の大賢者、転生を果たす

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第1話 魔力0の大賢者、転生を果たす

「ばぶばぶ~(ふむ、どうやら転生してしまったようだ)」  わしが目覚めた時、正確には記憶がはっきりして来た時、知らない天井があった。更に知らないベッドに寝かされておった。  しかも手足が短くやわっこかった。髪の毛もなく、ベッドのサイズも小さかった。  それでわかったのだ。これが噂に聞く転生かと。いや、生前からこの手の話は多かったからのう。特に大きな力を持った魔導師などはよく転生したと文献に残っておった。     ただ、そうなるとなぜわしが転生出来たのか疑問だが、まぁなってしまったものは仕方あるまい。 「さぁおっぱいの時間ですよ~」 「ばぶ~ちゅ~ちゅ~(うまうま)」  しかし、なんというか記憶がある状態でおっぱいを吸うというのもなんとも背徳的であるな。おまけに私の母となった女性はとても綺麗だ。年も若いな16歳ぐらいだろう。  しかも大きい。とても吸いごたえがあるのだ。とは言え、最初は緊張したものだ。何せ前世では子どもも孫も玄孫なんかもいたが、女性とは一度も付き合ったことがなかったからのう。子どもは全て盗賊や魔物に襲われたり戦などで家も家族もなくしてしまった子どもたちを引き取って養子にした子なので血の繋がりはなかったのだ。 「どうだ我が子は!」 「貴方。はい、とても元気にすくすくそだっています」 「そうか! それは良かった!」    おっぱいも飲み終わりお腹もいっぱいになったわけだが、そこに豪快な声の男が入ってきた。  そうこの男こそが今世のわしの父親なのである。なのであるが。 「そうかそうか! 元気に育っているか! うむ、お前はこのローラン家期待の星だ! 立派に育てよ!」  そう、なんと前世ではわしの側で長年尽くしてくれたあのローランの血筋なのだ。  全く奇妙なめぐり合わせもあったものだな。 「旦那様準備が出来ましたのでそろそろ……」 「うむ、そうだったな。息子よ! 今日はこれからお前に魔力測定を受けてもらうからな!」  ……来たかついにこの時が。わしの暮らすこの世界では古くよりこの魔力測定が行われており、生まれてきた子どもは先ず1歳を迎えた段階でこれを受ける。    その後も成人を迎える15歳までは定期的に受けることとなるのだが、さてどうなることか。  わしは母から父の手に委ねられ、別室に連れて行かれた。そこには儀式用の魔法陣が描かれ判定用の魔術師が待機していた。  ある程度の年齢になればもっと簡単に魔力が計れるのだが、幼いうちはこのようにしっかりとした術式でなければ正確な魔力がわからないのだ。 「それではどうぞこちらへ」 「うむ」  父がわしを魔法陣の中心に寝かせた。赤子のわしには何も出来ない、いややろうと思えば普通に動けるがそれもおかしな話だから赤子の体を取っておく。 「では、判定いたしますぞ!」 「ばぶ~(ドキドキ)」  60代ぐらいの魔術師が杖を振り上げ詠唱を行った。すると魔法陣が青白く輝き始める。ここまで前世でやったのと変わりがない。  そして問題はここからだ。準備が整うと魔法陣の光は一旦消え、そして再度光り輝く。この二度目の光の煌き具合で魔力が判定されるわけだが―― ――パッ! シィイイィイィイイィイイン……。 「む、むぅこれは!」 「なんと!」 「バブ……(なんてことだ……)」  まさかとは思っていたが、あぁなんという神のいたずらか、これにはわしにも経験がある。  そう、この反応は――つまり一度消えた光が全く輝かないこの状態は、魔力0……わしの肉体に全く魔力が宿っていないことを表しているのだ。  前世ではこれのおかげで随分とわしも苦労させられた。何せ魔力が0など当時の王国の、いや世界全体をみても例のないことであった。    そうわしは世界で初めて魔力0の状態で生まれてしまった男だったのである。  故に、当時のわしは随分と蔑まされてきた。町中でも馬鹿にされ続け、魔力なしの欠陥人間と揶揄され続けた。  この世界でいきとしいける者は、多かれ少なかれ魔力を持って生まれる。だからこそ人は魔法を行使できたり魔法の道具、通称魔道具と呼ばれるものが扱えたりするのだ。  だが魔力が0のわしにはそれが不可能だった。それがどれだけ大変なことであったか……本当に当時は辛かった。両親にも見放されわしは町から追放されたりもした。  だが、そんなわしにも救いの手を差し伸べてくれた人物がいた。それこそが当時のわしの師匠だ。師匠は厳しかったがおかげで魔法がなくても生きて行ける術が身についた。  問題はその結果、魔法が使えないはずのわしが大賢者様と尊敬されるまでになってしまったことなのだがな……。  まぁそれはそれとして……ちらりと父の顔を見る。真剣な眼差しだ。そしてわしには判る。この父のこの先の反応を。  前世の両親がそうであった。正直今世には多少は期待もしたんだがな。結局一緒であったか。今のとこ前世よりは両親の性格が良さそうに思えたが、やはり魔法が主体の世界である。  きっとこれから父は心底がっかりして声を大にして言うだろう。 「な、なんということだ……」  ほら来たぞ。双眸を大きく見開いて肩も震えている。そしてこう言うのだ。  魔力0で生まれてくるなど、なんて不幸なことなのだ! と。 「こんな、こんなことがあるなんて。おお神よ!」 「ばぶ~……(くるぞくるぞ)」 「魔力0で生まれてくるとは、これは、なんて幸せなことなのだ!」  ほら来た! て、え?  ちょっと待て。今なんと言ったのだ?  幸せ? 幸せといったのか? ん? わしの聞き間違いか? 「旦那様、ついに、ついに生まれましたね。しかも待望のこのローラン家に!」 「うむ、これはめでたい! 魔力0で生まれてくるとは!」 「これはこれは、まさかこのような奇跡の場に立ち会えるとは、一魔術師としてこれほど光栄なことはありません」  な、なんだこれはーーーーーー! おかしいだろ、いやおかしいって!  え? どういうこと? だってわし魔力0だよ? それなのに何この異様な盛り上がりは? おかしいだろ! 「全く今日はなんていい日なのか。まさか我が家にあの大賢者と同じ魔力0で生まれてくるものが生誕するとは! 決めたぞ、お前の名前はマゼル! あの伝説の救世主にして奇跡の英雄、魔力0の大賢者と同じ名前だ! 立派に育てよ。あっはっはっはっは!」  はい? いや、それもおかしい! どういうことだ? だってわし、死ぬ直前、確かに全てを話したよね? わしは魔法なんて使えないってそう言ってから逝ったよね! なのに、一体何がどうなっているというのか――
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