第19話 魔力0の大賢者、魔導を見る

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第19話 魔力0の大賢者、魔導を見る

 ラクナが悶絶してるのを認め、それからしばらくして将軍の配下の者が何やら人形みたいなのを運んできた。  う~んこれで何をするんだろう? 「これは本来、軍で兵士の訓練の為に使われている魔導人形だ」  おお、これが魔導か。魔導は比較的最近生まれた魔法の技術を表す言葉で魔道具より、より複雑な構造を持つ魔法技術のことだ。  通常の魔道具と異なり魔導は大掛かりな分、複雑なことが出来たり、より大きな効果を生み出したり出来る。魔導で出来た兵器も魔導兵器とよばれるとか。 「この魔導人形には予め命令に沿ってある程度自由に動く魔導式が構築されている。いつもは攻撃も可能だが今回は範囲内を動き回り回避と防御に専念するよう設定されている。これを5体動かし、魔法で何体倒せるかを見てみようじゃないか」 「倒す、倒せるのですかそれは?」  ライス様がガーランド将軍に聞く。確かにそれは大事かもね。 「確かにこの魔導人形はミスリルで出来ていてそう簡単に壊れるものではない」 「……え? でもミスリルだと衝撃に弱くないですか?」 「……は?」 「え?」  ガーランド将軍が小首を傾げたけど、あれ? おかしいな? わりと一般的な質問をしたつもりだけど。ミスリルは確かに魔法に対しての抵抗もあるし、切られたりするのにも強いけど、ダイヤモンドなんかと一緒で割と衝撃に弱いんだよね。僕がちょっと指でつくだけで砕けるし。 「……ミスリルが衝撃に弱いなどと冗談が上手いな。だがまぁ安心しろミスリルが壊れることはそうあるものではないが、この人形には物理抵抗の術式も施してある。そのかわり一定の魔法を受けると倒れるようにも設定されているから魔法以外で倒すことは不可能だ」  あぁなるほど。それならわかるかな。でも、そうなると圧倒的に僕が不利だ。何せ魔法以外効かないんだから魔法が使えない僕に壊せるわけがない。 「それでは準備を進めるとするか。折角だからちょっとした催し物としてここに集まった皆にも知らせよう。何せあの大賢者の魔法が拝めるというのだから興味はあるだろう。ローラン卿にも丁度いいであろう?」 「それは勿論。親バカと思われるかもしれませんが、しかしマゼルを大賢者と確信してのこと。むしろ多くの人に知ってもらうのは良いことです」 「ふふ、上手くいくとよいですがな。では、こちらも用意するぞラクナ」 「はい父上!」  ワグナーは何か僕の方を見ながら不敵な笑みを浮かべてるし、ラクナは終始睨み続けているなぁ。さっきまで石で痛そうにしてたのに。  ふぅ、父様の期待も何か重いし。でも、申し訳ないけど今回は僕の真実が明るみになってしまうかも。  でも、仕方ないよね。実際魔法が使えないのは事実なんだし。  そうこうしている内に着々と舞台が整い、周囲に招待された人々が集まってきた。何か楽団が奏でる音楽も落ち着いたものから盛り上がり系のに変わってきてるし。 「さて、どちらが先かだが、やはりここは大賢者と自負しているマゼルを後にするのが盛り上がりもあってよいと思うのだがどうかな?」  いや、自負はしてないよ! 「大賢者マゼルよ、どうする?」 「僕はどちらでも構いませんよ」 「はっは、なるほど大した自信だ。これはこまった、これでは先行の私の息子はただの引き立て役になってしまうかもしれませんぞ」  おちゃらけた口調でワグナーが応じる。だけど、目が笑ってないんだよなぁ~。 「それではラクナよ準備はいいかな?」 「勿論です。ま、お前には悪いが、引き立て役になるのはマゼル、お前だよ!」  自信満々にラクナが言った。用意が出来たというラクナは銀色の杖を握っていて、彼を囲むように拳より一回りぐらい大きな岩が並べられている。  どうやら彼の魔法はあの岩を利用したものなようだね。 「それでは、始め!」  将軍の掛け声を合図に、魔導人形が動き始めた。ガーランド将軍の言っていたように、ラクナと一定の距離を保ちながら大きな円を描くように動き始める。 「蠢く土、操る岩、守りし盾、攻めの礫――ストーンコントロール!」  杖を強く握ったラクナが詠唱を終えると、その足元に配置されていた岩がふわりと浮き上がり、ラクナを中心に高速回転を始めた。  ラクナが、どうだ! と言わんばかりの得意顔を見せる。なるほどね、さっき僕に向けて石を飛ばしたのもこれを使ったのか。 「……なるほど、もっと大雑把な性格に見えたのに、わりと魔法の制御は正確」 「はい、何か意外ですね。もっと粗雑な魔法だと思ってましたが」  アイラもラーサも結構酷いな! いや確かに言動はアレだったけど、でもやっぱり魔法は凄いなって思えちゃうね。  あれも魔力を使って岩を自由自在に操ってるんだろうしね。やっぱ魔法には憧れもあるかな。  ラクナはあの魔法で防御も攻撃も同時にこなせそうだね。回転する岩はある程度の攻撃は弾いてくれるし。それにあのまま魔導人形に突っ込むだけである程度のダメージは期待できる。     実際魔導人形は回転する岩の間合いに入ったとたんダメージを受けていってるしね。 「将軍お願いがあります」 「うん? 何かな?」 「この人形に攻撃させるよう命じてみてください」 「何? しかしあまり危険なのはな」 「お願いします。この魔法は攻防一体の魔法! 相手が攻撃を仕掛けてこないと本領を発揮できないのです」 「……判った。ただし危険なようならすぐに止めるぞ」    そんなやりとりがあった後、ガーランド将軍が命令を変更。すると魔導人形が一斉にラクナへ攻撃を仕掛けた。  だけど、ラクナの言うように周りを回転する岩が邪魔をして魔導人形を近づけさせない。 「さぁカウンターだ! クラッシュ!」    杖を振り上げラクナが声を上げると、旋回していた岩が勢いよく外側へ飛び出し、魔導人形5体を吹き飛ばした。カランカランという音がして見ると破損した人形の一部が転がっている。 「馬鹿な! 魔導人形が壊れるとは!」  すると将軍が飛び出し、配下の兵もやってきて魔導人形を確認し始める。 「申し訳ありませんガーランド将軍! つい力が入ってしまって!」 「私からも謝罪させていただきます。高価なものでしょうにまさか壊してしまうとは。我が息子ながらそこまで魔法が強くなってるとは露知らず」  ワグナー親子が将軍に頭を下げた。う~んやっぱり結構高価なものなのかな?   「いや……これは仕方ない。私も壊れることはないと踏んで遠慮なくやってくれと言ったのだからな。しかし、驚くべきはその子の魔法だ。まさかここまでとは……これを壊せるものなど王国魔導師でもそうはいない!」 「ふむ、まさかそこまでの物をあの年で……」 「これはむしろ大賢者候補の彼にとっては予想外では?」 「むしろワグナー家の3男の方が賢者を名乗るにふさわしい逸材かもしれませんなぁ」  ガーランド将軍がラクナを称賛すると周りで見ている人たちも一様に彼を褒め称え始めたな。うん、やっぱり性格はともかく魔法は本物ってことなんだろうね。    それはそうだろうな。例えば今のを僕がやるとしたら地面を足踏みして地面の岩を浮かした後、体を小刻みに震わせて気流を操作し岩を操ってるように見せるぐらいしか手がないもの。魔法ならそんな手間がなくても岩をコントロール出来るんだから便利でいいよね。 「さて、次は期待の大賢者マゼルの出番ではあるが、最初の魔導人形は破損したのでな。今から新しいのと交換しよう」  そうかぁ、確かに破損したままじゃ使えないもんね。 「マゼル、いよいよだな。後のことは考えず思いっきりやるとよい!」 「お父様、お兄様が思いっきりやってしまったらお城が吹き飛んでしまいます」 「むぅ、それもそうか。ならある程度の加減をしてやるとよい」 「はは、ですが、もしかしたら期待した結果につながらないかもしれません、その場合父様はどうされますか?」 「ん? はは私は大賢者マゼルを信じている。そんな心配は不要だと思うが、そうだな。お前にも調子の悪いときはあるかもしれん。もしそれで万が一に失敗したとして……何も変わらんさ」 「え? 変わらないですか?」 「うむ、変わらん。勿論色々誤解を生むこともあるかもしれんが、お前は私の大事な息子だ。それは大賢者だろうとなんであろうと変わらん。だからもし失敗したとしてもその原因は一緒に考えようではないか。もし悩みがあったなら一緒に悩めばいいのだ。何せ私たちは家族なのだからな」 「そうですよお兄様。勿論、私も何があってもお兄様の味方ですから!」  ……あぁそうか。これが、家族か……。そうだよね。判ってたはずだよ。  生まれ変わった後の僕の家族は前世の家族とは違う。だから僕は、だからこそ僕は、家族の期待には応えたいし応えないと駄目だ――
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