第22話 魔力0の大賢者、踊ってみる

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第22話 魔力0の大賢者、踊ってみる

 僕が壊してしまった魔導人形について悩んでいると、オムス殿下がやってきて問題ないと言ってくれた。 「大丈夫でしょうか?」  でも、オムス殿下は僕が安心できるようにと気を遣って言ってくれてるようだけど、どうしても気になって反問する形になってしまった。 「うむ。元々この勝負は人形が壊れない前提であり、将軍も思いっきりやるよう言っていた。それである以上、たとえ壊れたとしてもお主が責任を負うのもおかしな話だろう。大体先行したワグナー側も破損に関して不問であったのだから」    そう言われてみると、そうかもしれないね。それにあれから結局将軍は何も言ってきていない。冷静に考えたらあれは敢えて質の落ちる素材を使っていたみたいだし、それなら元から壊れる前提だったというのも納得できるかな。 「それにしても先程拝見した魔法は凄かったぞ。流石大賢者の生まれ変わりと呼ばれるだけある。本当に感動した」  姫様にそう言ってもらえるのは凄く光栄なんだけど、それ魔法じゃなくて物理なんだよなぁ……。 「……私も興奮した。マゼル凄い」 「あ、アイラ。え~と、うん、そう言ってもらえるは光栄だけど……この腕は?」  アイラが突然僕の腕に自分の腕を絡めてきた。なんだろう? 体調悪いのかな? 「……気になった相手はしっかり捕まえおくのが大事……お祖父様が言ってた」    うん? しっかり掴まっておかないと大変? やっぱり疲れが出てるのかもね。   「ああ! もう、アイラさん何してるんですか!」   すると妹のラーサもやってきて、何やらプンプン怒ってるようなそんな気がする。 「アイラさん、お兄様とは友だちなんですよね?」 「……深い友だち」 「な! そ、それなら私も!」 「え? ラーサまでどうしちゃったの?」  なぜか今度はラーサがアイラが組んでる側と逆の腕にしがみついて来た。妹も疲れたのかな? 「ふむ、流石大賢者だ。モテモテだな」 「え? いえ、これは多分2人とも疲れが出たんだと思います」 「……そうか、鈍感なのだな」 「?」  姫様が苦笑しているけどなんでだろ?  あ、そうか両方から2人に腕を組まれてるから見た目が面白いことになってるのかなぁ?  でもなぜか呆れられてる気がするよ。何はともあれ、僕やラクナの余興も終わってしばらくすると、お城に招待された客人が思い思いの相手と踊り始めた。  当たり前だけどこういう場では男女のペアが多い。踊っている人は皆楽しそうだ。  それから僕たちはしばらく舞踏会を楽しんだ。舞踏会だけに僕たちも踊る時間が出来たのだけど、僕はアイラやラーサ、それに何故か姫様からもお誘いを受けて代わり番こにダンスを踊ることに。  ちなみにラクナの姿は無かった。何かあの余興の後気分が悪くなって部屋に戻ったらしい。あれだけの人の目がある中で魔法を披露したから精神的に疲れたのだろうね。   「大賢者マゼルはダンスの腕も流石であるな」 「いえ、全然ですよ。皆のリードがなければ上手く踊れませんから」  姫様からお褒めの言葉を頂いてしまった。一応ダンスのステップは前世で師匠が教えてくれたけどそれが役に立ったよ。  でも、武術にも通ずるものがあるから多少は踊れるけど、やっぱり戦いを想定した動作と人に魅せるための踊りは違うから自信があるわけじゃない。 「オムス殿下、マゼルと踊りまで付き合って頂きありがとうございます」 「何、私が好きでやっていることだ。それに大賢者と誉れ高いマゼル殿と踊れるなど逆に光栄であるからな」 「そう言って頂けると親としてこれほど喜ばしいことはありません」  父様も姫様の前では流石に恐縮してるね。でも、このお姫様は何か偉ぶってるところがなくて親しみが持てるよ。ただ、僕に対する評価はもっと下方修正してほしいところなんだけど……。 「さて、今宵は米の料理も披露してくれるとのことであったな?」 「はい! 当家の料理人が腕をふるって準備しているところです。必ず気に入ってもらえると自負しておりますので!」 「ふむ、そこまで自信があるとは期待できそうだ」    姫様が笑顔をのぞかせる。そしてこの料理はうちにとっては重要だ。先ずここで姫様に気に入ってもらえないとうちで採れた米をオムス公国に輸出するという話が暗礁に乗り上げかねない。 「旦那様、少々宜しいでしょうか?」 「うん?」  すると、米料理に取り掛かっている筈の料理人の一人がやってけて父様に耳打ちする。すると父様の顔色が変わった。 「……それではオムス殿下。私は料理の確認に行ってまいります」  父様はそう言い残してこの場を後にした。料理人の後についていってるけど、なんだろ? 凄く気になる。 「ごめん、ちょっと僕も行ってくる」  だから僕もラーサとアイラと一旦離れ、そして父様の後を追った。 ◇◆◇ 「も、もうしわけありません旦那様!」 「いや、やってしまったものは仕方ない。だが、これは弱ったな……」    料理を作る厨房を覗き込むと、父様と一緒に同行させた料理人達が表情に影を落として唸っていた。どうやら何か問題が起きたようだけど―― 「お父様何かありましたか?」 「おお! そうだ、大賢者マゼルならもしかしたら何か良い手が、いや、魔法があるかもしれないな」  いや、なんでもかんでも僕だよりにされても困るは困るのだけど、実際魔法でない以上、限界もあるし。 「大賢者マゼル様、どうかこれを見てお知恵をおかしください」 「どこまで出来るかわからないけどちょっと見てみるね」  料理人が指し示したのは大きな釜だった。炊飯に使う料理道具で今は米を炊くのに使っていたようだけど。 「あぁ~見事にベシャベシャだね」 「そうなのです……どうやら水の分量を間違えてしまったようで……」 「「「「もうしわけありません! しっかり見ていたつもりだったのですが、このようなことになってしまい!」」」」  料理人達が一斉に頭を下げた。だけど父様も頭を上げるよう言ってるし、もうなってしまったものは仕方ないしね。  う~ん、でも確かに。本来ならもっと粘り気のあってツヤツヤのお米が炊きあがる筈なんだろうけど今の状態は完全にグズグズな状態だ。 「何か良い方法はないものか?」 「父様、炊き直すのは難しいのですか?」 「今からだととても時間が足りぬな」  一応聞いてみたけど、やっぱりそうか。これからお米を炊き上げて調理に入ってたら大分いい時間になってしまう。    既に城側からの料理は出来上がってるし、時間が経てばそれだけ皆のお腹が膨れてしまうものね。そうなると料理を食べてもらうどころじゃ……うん? 待てよ? 「父様、料理に使う材料はどれですか?」 「うん? ここにあるものだが」  ふむふむ、肉もあるし……流石父様。お米に合うおかずに漬物もしっかり用意している。これなら―― 「父様。これならなんとかなるかもしれません」 「なんと! 流石大賢者マゼルだ! それでそれは一体どんな魔法なのだ?」 「いえいえ父様。この問題の解決に魔法などは必要ありませんよ」 「うん? しかし、米は見ての通りこのままでは使い物にならないぞ?」  父様がグズグズになった米を見ながら首を傾げる。うん、確かに一見するとそう思うよね。  だけど、ま、ここは僕の前世の知識を活かして仕上げは御覧じろってね――
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