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倉持香帆のところに幼馴染の彼が突撃してきたのは、昼休みに入ってすぐのことだった。
低血圧でいつもローテンション、顔は悪くないけど社交性はビミョー。香帆の隣のクラスである1年E組に在籍する彼は、名前を時枝聖という。ひじり、と書いてきよい、と読む。合わせたわけでもないのに、高校でも何故か一緒になってしまった腐れ縁である。――私より頭いいくせに、なんでお前この学校にしたんだ、と香帆はこっそり思っていたりする。何につけてもモチベが低いくせに割となんでもできる聖に、いつも香帆はコンプレックスを感じてきたのだ。
「……なあ、香帆。お前校内新聞のネタで、七不思議調べてるって聞いたけど、それ本当か?」
そんな香帆のことを知ってか知らずか、開口一番聞いてくる聖である。やっぱりそれかよ、と香帆は思った。新聞部に所属する香帆に対して、聖が所属する部活は“オカルト研究会”。――つまり、ホラーネタを集めるのは彼らの部活動の一環なのである。
「調べてるけど、それが何?あんたに関係ないでしょ?」
別に、聖のことが嫌いというわけではないのだ。ただ、隣のクラスから会いに来たかと言えばこの態度である。知らない仲でもないというのに、最近の彼と来たら自分とはオカルトな会話しかしていないような気がする。やれ、女子トイレには何か出るのか、だの。屋上に自殺した幽霊が出るって話だけど本当に自殺者なんていたのか?だの。
それに加えて、香帆は部の方針のせいで、好きでもなんでもないオカルト関係のことを調べる羽目になってただでさえ機嫌が悪いのだ。多少対応が悪くなるのも仕方ないことではないだろうか。
「関係ないけど、関係ある。俺の部活知ってるだろ。嫌でも調べないといけないことはある。お前の方が情報を持ってるなら教えて欲しい」
「新聞部が、発表前のネタを人にバラすとかマジありえないと思わん?ていうか、そもそも私はずーっと気になってたんだけどさ」
「……何?」
「聖、なんでオカルト研究会なんかに入ったの?あんた、高校行ったら帰宅部一択だって言ってたじゃん。もしくは文芸部あたりに入ってマッタリ過ごすんだーって。それがどうして、オカルト?あんたそういうの興味あるどころか、むしろ避けて通ってなかった?」
腹立たしいが長い付き合いである。この顔はいいけどボケ倒し、熱意のネの字も感じられない男のことはよく知っているのだ。成績もいいし運動神経も悪くない、でも何に対しても興味を持つ素振りさえ見たことがない。昔からホラーが好きだったというのなら、そういう部活動に入るのもわからないことではないのだが――聖の場合、そうではなかったことを香帆自身知っているのである。
というのも、春にこの学校に入った直後。どんより沈んでいる聖の姿を香帆は見ているのだ。話を聞けば一言、“入りたくもないオカルト研究会に無理やり入れられた、面倒くさい”である。つまり、少なくとも二ヶ月前まで、聖はオカルトに興味を持つどころかどちらかというと嫌がっていたほどなのだ。
――なーんか最近妙なんだよなあ、コイツ……。
そう。そういう彼を知っているからこそ、おかしいなと思う香帆なのである。
興味もなかったはずのオカルトに関して、ここ最近の彼は妙に熱心に調べているようなのだ。正確には、嫌がっていたはずなのに入部してすぐ積極的に人から話を聞くようになったように思えるのである。
とはいえ原因に、全く心当たりがないというわけではない。オカルト研究会に所属していた一人の三年生が、四月に事故で大きな怪我をしているのである。
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