オレオを食べる話

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オレオを食べる話

 ベッドサイドの目覚まし時計が3時を告げた。  それを見た私は、寝転んで読んでいた漫画本を閉じて起き上がる。  ベッドに座り込んで大きく一度伸びをしてから、私は意気揚々と歩き出した。  六畳一間のリビングを抜け、キッチンの戸棚から取り出したのはオレオの袋だ。  袋の端を咥えると、続けざまに牛乳とコップを取り出して両手に持つ。  私はリビングに戻るとコップになみなみと牛乳を注ぎ、オレオの袋を開けた。  オレオを食べると手が汚れるし、歯にも黒いかすが付いてしまう。  だから私は人前でオレオを食べない。  これは私の誰にも知られない秘密の楽しみなのだ。  まずは袋の中からオレオを1枚取り出し、そのまま齧る。  ココアクッキーの仄かな苦みとクリームの甘みが口の中に広がる。  そのまま1枚を食べ終わると、牛乳を一口飲んで口の中をリセットする。  これでオレオは何枚でも美味しく頂ける。  とはいえ華の女子大生がこんな風に暴飲暴食をしている姿を見られでもすれば、百年の恋も冷めるというものだ。  しかしここは私だけの楽園。  お行儀なんて関係ない。  誰にも見られない。  そこにあるのは私と甘いお菓子だけだ。  私はオレオのクッキーを片側だけ剥がし、あまつさえ牛乳につけて頂く。  ココアの苦味の中に牛乳のまろやかさが加わり、食感もしっとりと変化する。  この背徳感さえ感じる食べ方が、私は堪らなく好きなのだ。  そういえば、小さい頃はこの食べ方をしたらお母さんに怒られたっけ。  遠い日のことを思い出す。  私は昔から母と反りが合わなかった。  なんとなくお互いの行動が気に障る。  本当にくだらないことで喧嘩をしてお互いにストレスが溜まる。  そんな繰り返しに疲れて、私は高校卒業とともに家を出た。  それからなんとなく家族と疎遠になったまま、私は少しの意地を捨てられないでいた。  どうして急にこんなことを考え出したのだろう。  ああ、オレオの食べ方のことだった。  あの頃ほど子供でない私は、またオレオの食べ方で怒られても、こういう食べ方も美味しいんだよと教えてあげるくらいの余裕はあるかもしれないな、と思った。  私は手元に残った半分のオレオを齧る。  やはりオレオはココアクッキーだけでも美味しいが、クリームと一緒ならもっと美味しい。
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