四百年ほど昔(1)

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 満月が映り込んだ海面が光の帯のようにゆらゆらと揺れていた。その帯を裁断する様に船首がまっすぐ進んでいく。  そこで生まれた波が、海面の光の帯を風に揺られているように見せていた。  小舟が次第に浅瀬に近づき、船底が海底の砂にやさしく触れる。生じた摩擦と傾斜によって凪の乗る船は動きを止めた。  その場で舟から降り、浅瀬に踏み込む。 「ああ、冷たい」  海水の温度が、心地よい。  海底の砂が指の間に入り気持ちが悪かったが、それも歩みを進めると海水に流されていった。  船首を両手で掴み、腰を低くして浜に小舟を引き上げる。凪は小舟から竹籠を取り上げると、砂浜を進み始めた。  すこしでも深く踏み込むと草履の隙間に砂が入り込んでくる。静かな夜に砂を踏む音が心地よく響いた。
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