四百年ほど昔(1)

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 海に面した草むらに入り、踏みならされて出来た道を進む。  凪の気配など気に留めないのか、膝の高さほどある草むらの中で虫が鳴き続けていた。  草むらを抜けると町に向かう一本の道に出る。整えられた土臭い道を進みながら、凪は無意識に首元に手をやった。首から下げているのは貝殻でできた首飾りだ。  それは、歌夜からもらったものだった。  凪が贈った(かんざし)のお礼に、と歌夜が手作りしてくれたのだ。藤色の小袖を着た歌夜が海岸で腰をかがめ、貝殻を拾い集めているの姿を想像する。自然と笑みが浮かんでしまった。   歌夜に渡した簪も凪の手作りだ。それを作る切っ掛けとなったのは、恵比寿神社の境内に敷き詰められた玉砂利の中に一際美しい半透明の小石を見つけたからだった。  凪はそれを持ち帰って、簪に合うように球形に削ると、玉簪の一部としたのだ。
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