四百年ほど昔(1)

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 その小石は青みを帯びていて、太陽の光で透かしてみると海の中から海面を見上げたような気持ちにさせられた。  町に向かって夜道をとぼとぼと歩きながら、その静けさの所為か歌夜の事ばかり考えてしまう。 「もし歌夜と夫婦(めおと)になれたなら……」  歌夜も同じ気持ちでいてくれることを望んでいた。  町の入り口の手前には川が流れている。そこに一本の橋が架かっていた。凪がその橋の手前まで辿り着いた時だ。  最初に凪の意識に踏み込んできたのは、荒い息遣いだった。  歌夜への気持ちを踏みにじられたような気分になり、眉間に皺を寄せて視線を町の方に向ける。  視界に入ったのは、見覚えのある赤い小袖だ。満月の下で、それは黒みを帯びて見える。そんな派手な小袖を着ている人物を、凪は一人しか知らなかった。
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