四百年ほど昔(1)

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 猿彦だ。  慌てた様子の猿彦が着る赤い小袖は、はだけてしまっていた。凪に気が付いたのか、覚束ない足取りで近づいてくる。 「……面倒な奴が来たな」  と、小さく呟いた。  その姿につい身構えてしまう。けれど、猿彦の表情には人を見下した様子がない。両手を伸ばして、縋るように凪の双肩に掌を乗せた。  そして、整わない呼吸の中で、なんとか声を振り絞るようにして言ったのだ。 「……たっ、たすけてくれっ!」  凪はその腕を振り払うと、一歩下がってから言った。 「なんの冗談だ! 今度は何をして島のみんなを騙すつもりだ! 昼間に言っていたことを聞いたぞ。今度は恵比寿様に何をした?」
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