四百年ほど昔(1)

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 それは飢えと乾きに苦しみ、手にした食物や飲料は炎に変化してしまうという。その為、決して満たされる事がないのだそうだ。  その明らかに人ではない白い何かは、大人よりも遥かに身の丈が高かった。細い脚が四対、蜘蛛のように八本ある。下腹部が大きく突き出ていて頭髪もない。  それどころか眼球さえなかった。のっぺらぼうのように、つるりとしている。  首といえる明確な凹凸はなく、頭のような部分をその幅のまま垂直に地面に向けて伸ばしたようだ。双肩や両腕のような部位もない。  凪の様子に猿彦も気がついたのだろう。  恐る恐る、怯えながら振り返った猿彦が、短い悲鳴をあげて腰を抜かす。  地面に座り込んだまま、臀部を地面につけて猿彦が後ずさろうとした。  よほど焦っているのか両方の踵が地面の上で空を切り、ばたばたと動く。
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