四百年ほど昔(1)

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 更に薄い膜のような物が口から出て、夜空で円形に広がる。  そのまま落下に身を委ねるようにして、猿彦に襲いかかった。広がっていた膜が猿彦の全身を覆い、その躰に密着するように窄まる。  それは蜘蛛が獲物を糸で締め付けて捕食しているかのようだ。  その膜の中で猿彦が抵抗しているのか、激しく揺れている。  白い何かがゆっくりと口を広げ、猿彦を頭から胸の辺りまですっぽり口の中に入れた。  猿彦を咥えたまま白い躰を垂直に立てる。包んでいた膜が口の中に戻っていった。その動きに併せて夜空に向いた猿彦の両脚と、乱れた赤い小袖が現れる。  まだ生きているのか、両脚をばたばたと踠かせていた。  鳥の卵を飲み込む蛇のように、猿彦を飲み始める。少しずつ猿彦の躰が見えなくなった。
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