四百年ほど昔(1)

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「頼むから行かないでくれっ! ……あそこには歌夜がいるんだ」  凪は夜道を走り続けた。  家屋が建ち並んでいる町の中央の通りを走り抜ける。静かだ。凪の荒々しい呼吸がその静寂を乱すほど、響いている。  町を一気に抜けると、そのまま恵比寿神社のある丘に凪は向かった。  勾配が徐々に急になり、両脚に掛かる負荷が大きくなる。その中腹ほどに恵比寿神社がある。  岩肌が所々に露出する道に苦戦しながらも走り抜けた。境内に向かう石段に足を掛けたものの、蓄積された疲労で膝が笑いそうになる。  それでも這い上がるようにして、石段を登った。恵比寿神社から漏れてくる松明の光で明暗ができている。  流れてくる滝のような汗をぬぐい、凪は願った。  
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