四百年ほど昔(1)

25/38
前へ
/101ページ
次へ
 凪は不思議と恐れていなかった。 「歌夜を返せ!」  白い何かの口で見えていた歌夜の両脚が全て飲み込まれる。一段と膨れ上がった腹部が臨月のようだ。  御神楽に使われたと思われる宝刀が凪のすぐ足下に落ちていた。腰を屈めて掴む。  食事を終えたばかりで満足しているのか、白い何かが置物のように動きを止めていた。  凪は鞘から宝刀を抜く。そのまま鞘を地面に投げ捨てると両手でしっかりと刀を構えた。  まだ、歌夜が飲み込まれたばかりだ。 「助かるかもしれない」  一気に駆け寄ると宝刀を右上に大きく振り上げて、白い何かの胴体の膨らんだ腹部を避けるようにして斬りつけた。  刃が触れた部分に薄い線が走る。そこから血液とは思えない黒い何かが滴った。
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!

119人が本棚に入れています
本棚に追加