四百年ほど昔(1)

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「……今夜の月は一段と大きく見えるな」  狼が月に見惚れるように見つめる。  その島は九州の東北部に位置する豊後国から五町ほど沖にあり、豊後湾に浮かんでいる。  島の周囲は約三里。人口は五千人程度だ。全国から船が出入りする千軒ほどもある港町で、南蛮貿易で栄えている。  その島で暮らす凪は漁で生計を立てていた。普段なら、今夜のような満月であれば、同じように生計を立てる仲間達が舟を連ねているものだ。 「しかし、誰もいない日だな。……それもこれも、猿彦(さるひこ)の所為だ」  古びた小袖の両袖を捲し上げながら、凪は眉間に皺を寄せる。脳裏に浮かんだ猿彦の姿に、つい苛立ちが増してしまった。  猿彦の親は南蛮貿易で富を得ている。雨竜島でも屈指の有力者だ。
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