四百年ほど昔(1)

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 歌夜に駆け寄ろうとした凪の足音に気がついたのか、白い何かが俊敏に反応する。細い脚で一歩踏み出すと凪の前に立ちはだかった。  歌夜は微動だにしない。その生死が凪には分からなかった。ただ、白い何かを再び歌夜に近づけさせるわけにはいかなかった。  凪は音を立てないようにゆっくりと後ずさる。宝刀で何度も強く床を打ち付けて、大きな音を立てた。 「おい、そこの化物! こっちだ!」  白い何かが凪の意図した通りに八本の脚を気持ち悪く動かして、真っ直ぐ凪に向かってくる。  その恐怖に耐えるように両手で宝刀の柄を握り込んで躰の正面で構えた。勢いを更に増しながら狂ったように突進してくる白い何かが、目前に迫る。    寸前で、凪は深く膝を曲げ、身を屈めた。宝刀を引き、腰の位置で構える。  白い何かの股下を抜けるようにして、宝刀を振り抜いた。切りつけた数本の脚から、黒い何かが滴り、床に飛び散る。
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