四百年ほど昔(1)

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 その部分は。  まるで水分を吸い取られてしまったかのように萎んでいた。  今なら逃げられるのではないか?  凪は好機を逃さないよう、ゆっくりと後ずさろうとした。その時だ。 「……な……ぎ?」  聞き覚えのある愛おしい声に凪は振り返る。  歌夜が床から少しだけ顔をあげていた。虚な表情であったけれど、真っ直ぐ凪の方を向いている。ただ、それ以上は動けないようだ。  その声に反応したのは凪だけではなかった。白い何かも声がした方に向かおうと、萎んだ脚を石棺に残したまま残された四本の脚で足掻こうとしている。  凪は宝刀の刃を白い何かに真っ直ぐ向けて構えると、腰を落とした。そのまま勢い良く床を蹴り、本殿に向かって踏み出す。
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