四百年ほど昔(1)

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 その間もは雨竜島に向かっていた。黒く静かに。  巨大な力を無限にも思わせる流動体の中に凝縮して、雨竜島よりも高く盛り上がっていく。  津波だ。  地震の揺れは激しさを更に増し、雨竜島のあらゆる所に亀裂を生んだ。その亀裂を海水で満たすどころか覆いかぶさるようにして、津波が島を包んでいく。  雨竜島を離れようと舟に乗った島民はその甲斐もなく波に飲まれ、瞬時に消えた。  高台に避難した島民たちが迫り来る高い波を真っ直ぐ見つめる。  もう逃げられない事を悟り、家族と抱き合うことで痛みをすこしでも和らげようとした。  雨竜島が海岸沿いから崩れ落ち、波の中に砂糖でも溶けるように消えていく。
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