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そんな何不自由のない環境で育った所為か、それとも生まれ持った気質なのか、人を見下すようにして騙すことが生き甲斐になっているような男が、猿彦だった。
「働きもしねえで、好き勝手に昼間から遊び呆けやがって……」
思い描いた姿に感情が言葉になってしまう。
派手な刺繍をあしらった朱色の小袖を着崩して町を跋扈する猿彦の姿は、誰からも呆れられていた。
「あいつの悪戯の所為で、皆は島から離れてしまった。残っているのは身動きのとれない老人や赤子のいる家ぐらいだ」
海に投げ込んでいた網をゆっくりと引き上げる。
握る手に海水が滴った。この時期であれば、鯵や太刀魚、障泥烏賊が獲れるのだけれど、網の中には僅かな魚しかいない。
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