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 ひらひらと舞う桜の花びらが舗装されたばかりの道路の脇にある側溝に吸い込まれた。  花弁が排水に流される姿も風流なものだと、椎名(しいな)は視線を正面に戻しながら歩き続ける。  大分県別府市の一区画である石垣(いしがき)町は、海岸沿いから山に向かって坂道で覆われているようなこの町の中腹あたりに位置していた。  黒い衣服で統一している椎名は元々の細身が一層細く見える。頭には黒いニット帽を被っていた。  華奢な見た目と綺麗な顔立ちの所為か、ボーイッシュな女性だと勘違いされる事が多い。  等間隔で並ぶ街灯が道路を薄暗く照らす中、自然な所作で周囲を改めて確認した。  人影はない。仕事への影響はなさそうだ……。
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