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 目的とした建物を囲む塀を勢いをつけて一気に駆け上がった。  敷地内の芝生に着地する瞬間、両膝を曲げて衝撃を和らげる。姿勢を低くしたまま周囲を観察した。  建物は室内の照明が点いていない。それは事前に行った調査の通りだった。  椎名は泥棒を生業として生活している。  高校生時代から掏摸(すり)を趣味にしていた。高等学校を卒業してからは掏摸で生計を立てていたが、泥棒に転職したのは十代最後の年齢となった、つい最近のことだ。  それを転職というかは分からないけれど……。  忍び込んだのは石垣町でも一際広大な土地を所有する古い屋敷だ。より影に近づける方を選んで椎名は屋敷に近づいていく。  屋敷の裏手に回り込むと、足音を立てないように扉に近づいた。
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