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そこには古い書物が置かれていた。椎名は遠慮することなくそれを手にする。これが今夜の獲物だ。
一六九九年に戸倉貞則が著した『豊府聞書』の原本。
戸倉貞則は江戸時代の前期に生きた豊後国の郷土史家だ。豊後国の歴史書である全七巻の豊府聞書を著した。
椎名が手にしているこの原本には、写本には書かれていないある情報が書かれているという。
ここを訪れたのはその情報を手に入れるためだった。
これさえ手に入れば長居は無用だ、と椎名は金庫の扉を閉め、何事もなかったように椅子を元の位置に戻す。
部屋から出ようと扉の方に向かった時だ。
照明がつき部屋が一瞬で明るくなる。思わず双眸が細くなった。
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