四百年ほど昔(1)

5/38

117人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ
 歌夜は良く話し愛嬌も良い。喜怒哀楽を隠す事なく、表情がころころと変わる。凪の両親からも、実の娘のように可愛がられていた。  身の丈は凪よりも頭一つ分は低い。  藤色の小袖を気に入っているらしく、それが良く似合っている。  最近は子供の頃のように一緒に遊ばなくなってしまった。お互いに齢が十五を超えてしまった事もあるのだろう。 「今夜はもう戻るかな」  凪は雨竜島に向かって舟を漕ぎ始めた。  島には小高い丘が幾つもあり、いずれも樹木が生い茂っている。その凹凸のある稜線が満月の光ではっきりと浮かんでいた。 「波も高くないし穏やかな夜だ」凪は淡々と舟を漕ぎ、島に近づいていく。「もう少し獲れてもよいだろうに」
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

117人が本棚に入れています
本棚に追加