四百年ほど昔(1)

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 その像は木彫りで大人の身の丈よりも高い。  狩衣の姿で右の手に釣り竿を持っている。そして、左の脇には鯛を抱えていた。  その腹部は大きく出ており、大漁追福の漁業神らしく商売繁盛を思わせる。  その恵比寿様の像の顔が赤くなる。それが神仏の怒りの顕れだというのだ。  凪の家でも、喧嘩でもしていると祖父母からよく言われたものだった。 「喧嘩はおやめなさい。恵比寿様の顔が赤くなりますよ」  凪は信心深いわけではなかった。だが、そう言われると不思議なもので、昂った気持ちを抑え込むことが出来ていた。  そんな島民の中にも人を見下し、神仏の祟りなどあり得ないのだと、馬鹿にする者がいる。  その代表とも言えるのが猿彦だ。
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