四百年ほど昔(1)

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 三日前の晩。猿彦が行動に移した。夜の間に恵比寿神社に出向き、恵比寿様の像の顔を真っ赤に塗ったのだ。  その翌日の早朝。恵比寿神社の近くに住む信心深い老人が、朝のお参りに行った際だ。 「恵比寿様のお顔が真っ赤じゃあ……」  それは瞬く間に、この狭い島に知れ渡る事になった。 「島が沈む前に逃げ出さんで良いのかのう」  と、凪の祖父母も心配そうにしていた。  けれど、二人とも加齢からくる足腰の衰えで、一人では身動きが自由にできない。 「迷惑はかけたくはない」という祖父母は、「私たちを置いて島を出なさい」と、続けた。  凪にそんなことができるはずもなかった。歌夜の家も同様の事情で、島を離れることができなかったそうだ。
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